つくばホスピタリストの奮闘記!

筑波大学附属病院 病院総合内科に所属する専攻医によるブログです。まだ創設間もない病院総合内科での活動を発信していきます!!

2020年末に小さくレクチャーしました

 寒い日が続きますね。COVID-19の流行状況もおさまりがつかない中での年末になってしまいました。ここまで流行が続いてくると、ちょっと発想を切り替えた方がいいかもしれないですね。「いかに元の日常生活を取り戻すか」という観点でCOVID-19の流行を語る風潮がありますが、むしろこの流行を機に新しい日常を模索して思い切ってシフトしてしまうくらいの発想の方が滑らかかもしれません。凄く極端なことを言うと、COVID-19流行以前と以後とでは、もしかしたら産業革命以前と以後くらいの違いが出てきてしまうかもしれない。じゃあ、新しい世の中に向けてどう行動するべきか、そのあたりはまだItoも見定められていないというのが現状ですが……。ともかくも、逆境ばかりに凹んではいられないですね。逆境の中にこそ勝機を見出さないといけない。逆境だからこそ勝ちにいかないといけない。『論語』には「歳寒くして松柏の凋むに後るるを知る」という言葉もあるくらいですから。

 

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Tips for Residents: 本当は怖いUTI (尿路感染症)

 

 さて、医療現場は言うまでもなく、医学部教育も大きく影響を受けているみたいです。学生時代にガチ勉する方法について先週の記事で書いたばかりだったのですが、レクチャー希望があったということで、昨日 (2020年12月30日) に尿路感染症についての短いレクチャーを行いました。Zoomに課金していない関係上、40分と短いレクチャーで、おまけにマイクが不調だったので開催直後に結構慌てたのですが、携帯電話から別個にログインして音声を吹き込みながらPC操作をすることで上手く切り抜けることができました。時間制限があるとメッセージ性を意識してレクチャーするようになるので、これはこれで、20分強の子供向けアニメ1話分並みに寂しいながらも丁度いいのかもしれません。

 

 救急外来で当直していて、発熱患者さんが来ると大変ですよね。今はCOVID-19が流行しているせいで、その大変さが大いに増しているのですが、COVID-19が流行していない時代でも正直、骨が折れていました (そういえば「医療崩壊」という言葉がCOVID-19流行を機に語られていますが、茨城県や埼玉県ではCOVID-19流行以前からほぼ医療崩壊している状態で、訴訟に怯えながら回している状態だったので、個人的には街場の医療崩壊論をとっても複雑な気持ちで聞いています)。そんなボロボロの救急外来で発熱患者さんを診ている中、尿検査で膿尿が見つかると「よっしゃ! UTI (尿路感染症) だ!」と飛びついて思考停止してしまうわけです。

 

 特別な背景因子のない「男の尿路感染症」は基本的に誤診です。というか、ほぼ間違いなく誤診です。だけど、救急外来でそういう診断が下されがちなのは致し方なしとItoは思っています。というのも、救急外来には患者さんがひっきりなしに押し寄せてくる。睡眠時間も削られていき、吐きそうになりながらの過酷な状況下での勤務になるわけですから、ここで正確な診断云々を言っても無理な相談です。むしろ大切なのは、「男の尿路感染症」を救急外来から引き継いだ病棟診療医が診療の方向性を上手に修正すること。その軌道修正が可能な程度のプラクティス (最低限の身体診察をする、培養検査を提出するなど) がなされていれば、救急外来のプラクティスとしては十分だと認識しています。

 

 で、今回のItoの講義は、救急外来から「尿路感染症」として引き継いだ患者さんを病棟でどのように軌道修正していくかについてお話させていただきました。まず、軌道修正の難易度を下げる救急外来でのプラクティスについて……

 

救急外来でないと得づらい病歴

特に家族からの情報。抗菌薬投与歴が前医であるかないかが分からないと、検査結果のアセスメントができなくなってしまいます。つまり、疑心暗鬼になりながらの診療になるということです。

治療前の身体所見

所見は時とともに失われる。Itoは怒らないことを心掛けていますが、身体所見記載のないカルテを見た場合は怒る気がなくても怒らないといけないと思い直して、雷を落としています。

尿培養や血液培養検査を採取する

抗菌薬で有害事象が出た時の代替薬選択で超重要です。抗菌薬を使う患者さんの5人に1人が何らかの有害事象を起こすので、その際の代替薬選択のプロセスが手探りになってしまうわけです (Tamma PD, et al. JAMA Intern Med 2017;177:1308-15)。もちろん、培養を採取する理由は他にもたくさんあります。

概ね妥当な抗菌薬選択

一部の例外を除けば基本的にセフトリアキソンなどで十分。敗血症では抗菌薬投与が1時間遅れる毎に7%死亡率が上昇するというデータも古くからあります (Kumar A, et al. Crit Care Med 2006;34:1589-96)。抗菌薬が必要な状態だと見定めたら、躊躇なく抗菌薬を十分量で投入するべきです。

 

 この程度のプラクティスがなされていれば、入院後に病棟で軌道修正を行うことが可能です。逆に、これらが抜け落ちていると軌道修正不能で詰むことがあります (感染症コンサルタントとして詰んだ診療を解きほぐす行為もまた、捜査官の仕事みたいにchallengingで面白いんですけどね)。それで軌道修正をするにあたり、入院後に確認すべきこととしては……

 

本当に尿路系の感染症か?

無菌性膿尿という概念がある。虫垂炎やPIDでも膿尿は出る! 要するに、尿管外の感染症も意識しないといけないということです。詳しくはNEJMの総説を参照のこと (Wise GJ, et al. N Engl J Med 2015;372:1048-54)。

尿路系だとしたら、尿路のどこか?

前立腺炎尿道炎は対応が特殊! 前立腺炎では、感受性が許せばキノロン系やST合剤の使用が望ましく、その治療期間も長くなります (Schaeffer AJ, et al. N Engl J Med 2016;374:562-71)。また、尿道炎は性感染症としての要素が強いので、問診をしっかりしたり、他性感染症の併存がないか気にかけたりする必要があります。

特殊な菌が出ていないか?

例えば黄色ブドウ球菌が出る場合は感染性心内膜炎とかが心配。全身に回った黄色ブドウ球菌が腎経由で尿に出てきているのを見ているだけの可能性があるわけです。また、カンジダによる尿路感染症は極めて稀で、発熱患者に対してそのように診断している場合は、むしろ他に何かがあることを疑うべき……仮に腎移植後でもね (Goldman JD, et al. Clin Transplant 2019;33:e13507)。

 

 他にも色々とポイントがあるのですが、そういった内容を30分くらいにまとめてレクチャーしてきたわけです。筑波大学の研修医の先生だけでなく、過去にItoが教えていた東大生の皆さんも参加してくれて、とても嬉しかったです (これで安らかに年を越せそうじゃ)。ただ、レクチャー後に東大生の皆さんからもっと東大生向けにもレクチャーしなさいとお叱り(?)コメントをいただきました。確かに、2週間に1回くらい、こういうレクチャーの機会を設けられるといいですね。ということで、次あたりに「Advanced 5Days」を考えています (時期未定)。過去にItoがやってきた「5Days」という抗菌薬の講義があるのですが、その講義では分かりやすさを優先するために細かい知識を結構省略していました。そういった細かい知識を導入しながら「5Days」の内容を復習しましょうという趣旨で組み立てようと思っています。乞うご期待!

 

それでは皆さま。Stay homeで良いお年をお迎えください!