つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

他流試合

今年度ずっと有給をいただきそびれ、臨床研修センターからの指示で3日間の有給をいただいているItoです。ちょうど有給の2日前に舌潰瘍ができてしまい、痛みのあまり喋ることも水を飲むこともできない有様だったので、上手く休暇を養生にあてられて幸いでした。ビタミンB群、ビタミンC、半夏瀉心湯、生理食塩水でのうがいなど、ありとあらゆる治療をしていて、あと数日もあれば完治するのではないかと思います。健康には人一倍気を遣っていても、果物を一切食べられないところが栄養面でのハンデになっていそうです。

 

今日は東京の感染症内科医で集まって症例検討会 (オンライン) をしていたのですが、やはり刺激的で良いですね。張り合いがあるというか。今の感染症業界を牽引している先生方は、少なくともIto目線では怪物揃いなのですが、久しぶりにその議論に参加して心が震えました。参加したと言っても、Itoは今回は一切発言しませんでしたが…… (舌が痛くて悶えていました……)。今回は2症例の検討会だったのですが、偶然2症例ともHIV/AIDS症例の播種性Histoplasmosisでした。Itoは両症例とも最初からずっと播種性MAC症 ± 悪性リンパ腫/カポジ肉腫あたりだと思っていたので、綺麗にやられた形ですね (なお、Histoplasmosisが鑑別診断に挙がった後も「暴露歴がしょぼいんだよな……」と半信半疑でした)。

 

さて、症例検討会をした後は手元に手書きの議事録が残るわけですが、Itoの経験上、書いた議事録を見返すことは二度とない。これまで自分が出席したIDATENの議事録は全て保管しているのですが、埃をかぶってしまっていますね。だけど、こんなに貴重な症例を忘れ去ってしまうのももったいない。どうしたらよいものか悩ましいところですが、今回は新しい試みとして、播種性Histoplasmosisの総説のPDFをダウンロードして、そこに症例検討会で出てきたポイントをマーキングしてPubMed Cloudに落とし込む方法で対応しようと思います。PubMed Cloudに落とし込みさえすれば、きっとどこかで今日得た知識を役立てることができるんじゃないかと思うのです。


ちなみに、Itoが忘れたくないと思った知識を羅列すると、

HIV/AIDS患者のHistoplasmosisはWHOのガイドラインを参照。また、CDCのホームページに概念図がたくさん掲載されている。

❷ 流行地域への滞在がたとえ数年前でも、たとえ数日間の滞在でも、鑑別からは除外不可。アメリカのイメージが強いが、タイなど幅広く分布しているので、油断せず流行地図を毎回見るようにする。

❸ 他真菌やニューモシスチス肺炎ほどではないがbeta-D glucanが少しだけ上がる。LDHやフェリチンが上昇したり、汎血球減少が見られたりもするが、それは「播種性」と名の付く疾患ではだいたい当てはまるので特異的とは言い難い。

❹ 診断は培養だが、biosafetyの確保が必要。尿中抗原検査が存在はするが、日本ではcommercial baseで不可。日本で早期診断する方法がないかと思いきや、buffy coat検体中に酵母様真菌を探す方法が残っている。

❺ 播種性Histoplasmosisは播種性MAC症/結核と病像が被る (セットで鑑別に挙げる)。播種性Histoplasmosisはseptic shockを起こすが、播種性結核はさほど起こさないので、治療の優先順位は前者が上位。なお、関係ない知識として、造血器腫瘍患者におけるアデノウイルス感染症もseptic shockを起こす感染症として覚えておく。

❻ ❺に関連して、骨にも播種することがあるため、悪性リンパ腫も重要な鑑別診断になる。生検で検出されなかった場合のことを常に念頭にマネジメントを考える (経験的治療としてL-AMB (3-5 mg/kg) の投与を躊躇しないなど)。

❼ Coccidiosisは、Histoplasmosisよりも髄膜炎や皮膚病変が多いとはされている。これらの情報だけで鑑別するのは危険だが、参考にはなるかもしれない。

 

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白血球中のHistoplasma (Kauffman CA. Clin Microbiol Rev 2007; 20: 115-32)

 

症例検討会に出てきたこれらの知識を論文中に確認する作業をして、論文中に見つけられたらハイライトしてPubMed Cloudに保存しておくわけです。口頭で語られた知識が本当に正しいのかは、たとえ相手が大御所でも検証しておかないと、自らの血肉とすることはできません。それに、論文を読む時間をとることで、似た症例と遭遇した時のイメージトレーニングを無意識下に行えるメリットもあります。

 

それにしても、ID Week 2020に参加して以来の、本当に心震えるひと時でした。自分もこういう議論ができるようになりたい。世界に挑戦するというのは、こういった怪物のような先生方と渡り合うことを意味しているのだなと再確認できたのも非常によかったと思います。思えば、これまでNEJMやJAMA、Lancetなどのいわゆる「ジャーナル四天王」に挑戦して一度として勝てたことがありませんでしたが、自分の実力ではまだまだ及ばない域なのでしょう。もっと鍛錬して、自分も上を目指したいと思った次第です。どう鍛錬するかについては、温めてきたアイデアはあっても予算 (設備) がないので、そこは休み明けに臨床研修センターに相談……ですかね。