つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

病院総合内科を修了した後のこと

こんにちは、Itoです。梅雨が明けて、猛暑が続くようになりました。病院総合内科にも熱中症の患者さんが増えてきましたが、そのほぼ全例が高体温で入院してくるので、多くが自動的にCOVID-19用の隔離病棟に入ってしまう現状に心を痛めています。もちろん、感染症を契機として体調を崩している中で熱中症になる患者さんもいるので、現行の対応で続けるしかないのでしょうが、COVID-19の流行状況次第では無理を生じてくるかもしれません。

 

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暑い日は畳のある場所に行きたくなる

 

さて、病院総合内科は黎明期の診療科ということで、例年通りに新メンバーが入ってこない状況が続くのではないかと懸念していたのですが、今年の新歓は興味があるよと声を掛けてくれる研修医の先生が何人かいてくれたことに感銘を受けています。前回のブログでも同じようなことを書いていて繰り返しなのですが、素直に嬉しく思っています。彼らの病院総合内科入りが確定したわけではないものの、どんな診療科を作っていけば彼らにとって幸せな現場を作ることができるのか、色々と考えるようになりました。もともと幸せな医療現場を追求してはいるのですが、やはり新しいメンバーの顔を思い浮かべるとその真剣さも増すというものです。

 

新メンバーが病院総合内科で充実した3年間を過ごしてほしいとItoは考えていますが、それだけでなく、修了した後も実りある医者人生を過ごしていける布石となるようなプログラムを作っていくことも目標にしたいとも考えています。今回のブログはそれについてです。

 

そもそも病院総合内科は、ジェネラリストの養成プログラムです。専攻医向け説明会で科長のK先生が説明されていましたが、ジェネラリストの育成は高齢社会における時代の要請であり、また、1人で10の問題を捌くことのできる存在でもあるので、経営者目線でも非常に有難い存在です。そんなわけで、巷ではジェネラリスト礼賛の声もチラホラ聞かれているのですが、敢えてひとつ言わせていただきたい。

 

"生粋の" ジェネラリストには、決してなってはならない。

 

どういうことかというと、ジェネラリストは何でもそつなくこなせるので、上層部から見ると非常に使い勝手の良い存在です。弱みがない反面、強烈な強みもないので、組織の中でのポジショニングが異常なまでに難しくなります。悪く言えば器用貧乏、組織の中に埋もれてしまうリスクが高いわけです。その結果として起こりうること(従事することになる仕事の内容など)は想像に任せていただくとして、生粋のジェネラリストになってしまうのはこの令和の世にあって、必ずしも得策とは言い難いと思います。

 

実のところ、病院総合内科に関わっている指導陣は全員何かしらのスペシャリティを持っています。言い換えれば、全員が「ジェネラルのできるスペシャリスト」です。先日の専攻医向け説明会で、指導陣全員が「病院総合内科はサブスペシャリティまで見据えている」みたいな発言をしていたと思うのですが、その意図は(Itoが察するに)サブスペシャリティ研修を行っていくための骨太な基盤を病院総合内科で築き上げていってほしいということなのです。従って、病院総合内科ではジェネラリストをon the jobで学んでいただきつつも、研修内容に「スペシャリストの心得」を含むようにしていけたらと考えています。

 

要するに、ジェネラリスト兼スペシャリストを目指してくださいということです。「ジェネラリストがスペシャリスト集団の中にいる」「スペシャリストがジェネラリスト集団の中にいる」……どちらの状況にしても、集団にとっては非常に有難いですし、当の本人にとってもブルーオーシャンにいられてポジショニング面で有利なので、メリットしかありません。なんやかんやで、自分の仕事を周囲からリスペクトしてもらえることって、とても幸せなことなんですね。そういう意味で、病院総合内科に入っていただけるジェネラル指向の強い先生方には是非、長期的にはスペシャリストになっていただきたいなと考えるわけです(換言すれば、物言わぬ「社会の歯車」にはなるなということです)。

 

では、スペシャリストとして大成するにはどうしたら良いのか、という話になってくると思うのですが、Ito個人の意見としては、超一流の師匠を見つけて徹底的に真似をすることに尽きるかと思います。独学でもある程度のところまでは行けるのですが、残念ながら独学だけでは絶対に破り切れない壁があります。師匠選びにはじっくりと時間をかけるべきです。自分の師匠を安易に決めてはいけません。有名な人物を師匠にすれば良いかというとそうでもなく、そういった人物は大抵忙しくて相手にされませんし、それ以前に理想を同じくする師匠を選ばないと、結果的に自分を見失うことになります。しっかりと自分の目で見て、心で感じて、頭で考えて師匠を選ばなければなりません。病院総合内科は、ジェネラル研修だけでなく、その師匠選びの時間を提供する「モラトリアムの場」にもなれるのではないかと思うんですね(例えば、病院総合内科の研修中に、他の施設を1日か2日ばかり見学に行きたいということも生じるかもしれませんが、その埋め合わせはマンパワー的に十分可能です)。

 

もし、ピンと来るような人物を見かけたら、本気で押し掛けて弟子入りするべきです。特にこのコロナ禍でオンラインでの勉強会が発達した結果、茨城県にいながらも日本全国の素晴らしい先生方の意見を聞く場面が増えてきたかと思うんですね。そういった一流の先生方の一挙一動、言葉のひとつひとつをよく観察しておくこと。「一流とはどういうものか」というセンスを、全国の勉強会に参加してしっかりと自分の中に蓄積していくのです。

 

ピンと来るような人物と言いましたが、実際のところは滅多に出会えません。例えば日本の感染症業界には優れた人物が多くいることは事実なのですが、実際に交流を持ってItoが「弟子入りしたい!」と思った人物は数人もいません。「優れた技術」と「理想の共鳴」というふたつの厳しい条件がある以上、まぁ、そんなものです。ですが、「弟子入りしたい!」と心の底から思える人物が現れたら、そのチャンスは絶対に逃してはいけません。弟子入りするかしないかで、恐らく人生が大きく変わってしまうかと思います。

 

病院総合内科に来ていただける先生方には研修後のことをしっかりと伝えていけたらと思いますが、その中で素晴らしいスペシャリストとの出会いを応援していけたらということも考えています。幸いにして、Itoは押し掛け弟子を人生で5回くらいやっている人間でして、専攻医の先生方が弟子入りしたい師匠を見つけた時にその背中を上手に押す自信があります。先生方には弟子入りのコツも授けたいと思っています。スペシャリストの性質も帯びた、唯一無二のジェネラリスト」を育てること。Itoとしては、それも病院総合内科のミッションにしていきたいなと感じています。