つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

コロナ禍でどう長期休暇を過ごすかという苦悩

医師には基本的に休暇というものが存在しないが(病院総合内科は最低週1は休める)、それでも夏季休暇と有給休暇は存在する。それぞれに大体5日から7日程度あてられることになるが、そういった長めの休暇をどう過ごすかが非常に悩ましい今日この頃である。というのも、COVID-19が流行している。そして、デルタ株の出現前後でワクチンの効きがまるで変わってきてしまっているので(発症予防 95% → 70%)、ワクチンを2回接種していても時にクラスターが発生するという油断大敵という状態だ。最低限の社会的マナーとして県外への移動を自粛しないといけないという話になっているわけだが、当然これは医療従事者の場合も例外ではない。

 

特に医療従事者の多い家族となると、普段休みを合わせることができないものだから、長期休暇くらい県外に出たいという不満も噴出してくる(特に外科系だと常にハードワークなので、はっちゃけたくなる気持ちもよく分かる)。そこにItoが「こんなつまらんことで人倫の道を外れるわけにはいかん!」と偉そうに腕組んで演説するわけだから、家族喧嘩に発展する……と。県外への移動を自粛すると口で言うのは簡単でも、家族の不満を抑えないといけないという意味ではなかなかに難しい仕事ともいえる。

 

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コロナ禍以来、道端の花に足を止めて愛でることが増えた

 

さて、声を荒らげて「県外に移動しない」という方針を絶対死守するところまでは良いのだが、1週間もの期間を自宅でずっと過ごすのもなかなか苦痛だ。Ito個人に限れば、日常臨床の中でやり残した研究をやったり、論文を書いたり、積読になっている本を読んだり、ふるさと納税の返礼品を集めてテイスティングしたりと色々とやることがあって忙しいから引き籠り生活もさほど苦ではないのだが、引き籠り耐性のない家族がこれをやると、メンタルに不調をきたしてしまうことは間違いないだろう。PCに向かってむさい男が一匹、頭を抱えてウーウー唸っている光景を一日中見させられる家族の気持ちも考えなければいけない。守るべき最低限のルールをしっかり守りつつも、肉体的・精神的に持続可能な方針を採る……このバランスとりには多少の苦悩を伴うわけだ。

 

ちょっとロジカルに考えてみると、新型コロナウイルス飛沫感染接触感染が主で、特殊な条件下(エアロゾル発生手技など)において空気感染も起こるとされている。ということは、素直に飛沫感染接触感染が理論上起こりえない状況で過ごせば良いということになる。これを言い換えると「他の人が全くいない場所で過ごせば良い」ということになるわけで(例:人のいない南極では風邪をひかない)、例えばホテルに宿泊して普段同居している家族以外の誰とも接しなければ良いという話になるだろう。

 

実際、都内の同業者の先生方が夏季休暇をどう過ごされているのか、SNSを見て自分なりにサーチみたが、ぱっと見では都内のホテルに宿泊されている先生方が主な印象を受けた。理詰めで考えていくと、自宅への引き籠り以外では「ホテルに宿泊し、そこから外出することなく非日常の空間を楽しむ」というのが最適解なのだろう。100%人に会わないのは無理だとしても、チェックイン・チェックアウトの時しか人と向き合わないようにして、あとは手洗いうがいを100%徹底すれば、感染リスクを大きく抑えることができるという計算である(もっとも、この100%徹底という部分が意外に難しいことと、手段が簡便であるがゆえに手指衛生を信用しない人がいるというのが、このコロナ禍遷延の一因となっている感は否めないが……)。

 

そうすると「ホテルから一歩も出なければ、県外でも良いではないか」という疑問も当然ながら生じてくる。結論としては「『医学的には』その通りかもしれない」と言わざるをえないだろう。県外に移動したとしても、理論上感染が起こらないような状況を作り出すことは不可能ではない。人と殆ど会わなければ良いのだから。ただし、「県外に移動する」というのが「社会的に」許容されるかどうかは別問題であるという点には注意しなければならない。医学的に大丈夫であることと、社会的に大丈夫であることは、全くの別問題で、このあたりは弁えねばならない。

 

つまり、人間社会には色々な考えを持った人がいる。ロジカルに正しいことが全て受け入れられるというわけではなく、意思決定にあたっては周囲の感情にも配慮が必要である。それに、どんなに適切なことをやっていても、偶然悪い結果が出てしまえば誹りも免れないだろう。正直なところ、「県内の宿泊施設に引き籠る」というItoの思う最適解についても、反対意見がきっとあるはずだ。このプランをItoが最適解だと思う理由は、感染拡大を防ぐことと家族の空中分解を防ぐことのバランスをとるに妥当な方法と判断したからであって、感染拡大を防ぐことを最優先するのであれば「自宅に引き籠る」が間違いなく正解である。このことは素直に認めるし、独身だったら迷わずそうする。

 

このコロナ禍もまだまだ年単位で続くことが予想されるわけだが、その後には必ずや「ポストコロナ時代」という目まぐるしく状況の変わる激動の時代がやってくる(あるいは、コロナ禍と並行して)。脱成長の概念やSDGなどが注目されつつあるとはいえ、資本主義社会の成長スピードはまだまだ侮れない。だから、まずはCOVID-19に罹患しないこと(罹患しても生き残ること、周囲にうつさないこと)。それに加えて、ポストコロナ時代を生き抜けるだけの肉体的・精神的な余力を残しておき、可能であればこのコロナ禍の間に新しい時代に向けた投資を行っておくこと。一方的にCOVID-19に負け続けてばかりもいられまい。