つくばホスピタリストの奮闘記!

筑波大学附属病院 病院総合内科に所属する専攻医によるブログです。まだ創設間もない病院総合内科での活動を発信していきます!!

今週のNEJMが面白い

大学5年生の頃から欠かさずNEJMを読んでいるが、毎号が面白いかというと、必ずしもそうではない。NEJMは最先端の治療のお披露目の場であることが多く、若手医師の手に届くようなプライマリケア周辺の論文は比較的少ない。結局、若手医師はOriginal articleよりもReviewやMGH case recordsを中心にNEJMを読んでいくことになるが(若手にとって面白い原著論文はむしろStrokeとかChestなんかに多いぞー!)、稀に若手が大喜びするような号があるから油断ならない。今週号(September 30, 2021 VOL. 385 NO. 14)も、そんな極めて稀なパターンである。

 

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今週のNEJMは、稀に見る "神巻" だと思うぞぃ!

 

Maintenance or Discontinuation of Antidepressants in Primary Care

病院総合内科をやっていると、緊急入院した患者さんが抗うつ薬モリモリのポリファーマシーになっていることなんてザラにある。内服薬が15種類を越えてくると、初診医としてはさすがに気が狂いそうになるのだが、診療に関わった以上は目を背けてはいけない。それで、気を取り直して毎回精神科にコンサルトをするのだが、大抵の場合は「続けて下さい」と言われる。この論文は、うつ病症例で抗うつ薬を漸減・終了していいか?というクリニカルクエスチョンにヒントを与えてくれる(実際には偽薬にすり替えて漸減・終了群としている)。結論を言ってしまうと、抗うつ薬を無理に減らすとうつ病を再燃しやすくなるらしい。で、抗うつ薬を減らすことによる何かしらのメリットも確認されなかったと(但し、ポリファーマシー屋さんにとって最も関心の深いであろう転倒外傷については明言なし)。まとめると、急性期の場合は結論つかずながらも、慢性期も視野に入れると抗うつ薬はやめない方がという話になりそうだ。

By 52 weeks, relapse occurred in 92 of 238 patients (39%) in the maintenance group and in 135 of 240 (56%) in the discontinuation group (hazard ratio, 2.06; 95% confidence interval, 1.56 to 2.70; P<0.001).


Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension

病院総合内科に入院する患者さんは、75歳オーバーがデフォルトである。超高齢社会、ヤバイなぁ、日本ホントに大丈夫かなぁと毎度感じてしまう状況だが、現実からは逃げてはいけない。それで、75歳をひとつの境界として診療態度を変えている内科医は少なくない。例えば、血糖値の厳格なコントロールを超高齢者にしてしまうと低血糖を起こして致命的な転帰を辿らせてしまうこともあるなど、超高齢者に対しては「ほどほどの治療」を行って無理しないという態度も許容されるのではないかと考えられる(いわゆる "Do No Harm" の態度)。ただここで注意しないといけないのは、「許容されるのではないかと考えられる」という部分 —— 断言するにはまだまだデータが足りていないのである。なにしろ、超高齢社会は現状 日本特有の現象だ(イタリアやドイツもかな?)。日本が積極的に臨床研究をやって、世界をリードするべき分野なのだ。それで、この論文は中国の臨床研究なのだけど、高血圧症を本気で治療すべきか、ほどほどに治療すべきかという話。結論としては、本気で治療した方が脳梗塞とか心臓病とかが少なくなるらしい(日本人でなく中国人である点に注意)。加えて、本気で治療してもめまいとか骨折(転倒外傷)は増えなかったとのことだ。うーん、これはちょっと意外だったなぁ。

During a median follow-up period of 3.34 years, primary-outcome events occurred in 147 patients (3.5%) in the intensive-treatment group, as compared with 196 patients (4.6%) in the standard-treatment group (hazard ratio, 0.74; 95% confidence interval [CI], 0.60 to 0.92; P=0.007). The results for most of the individual components of the primary outcome also favored intensive treatment: the hazard ratio for stroke was 0.67 (95% CI, 0.47 to 0.97), acute coronary syndrome 0.67 (95% CI, 0.47 to 0.94), acute decompensated heart failure 0.27 (95% CI, 0.08 to 0.98), coronary revascularization 0.69 (95% CI, 0.40 to 1.18), atrial fibrillation 0.96 (95% CI, 0.55 to 1.68), and death from cardiovascular causes 0.72 (95% CI, 0.39 to 1.32).

 

REGEN-COV Antibody Combination and Outcomes in Outpatients with Covid-19

これは厳密に言えば今週号ではなくて、先行公開の論文なのだけれど、COVID-19に対する抗体カクテル療法の論文。抗体カクテル療法は数か月前から「効く」と公表されてはいたけれど、論文としての公開が遅かったこともあって「ようやく来たか!!」といった印象である。結論としては、外来管理できるCOVID-19症例で抗体カクテル療法は入院 + 死亡を1/3に減らしたり、有症状期間を14日から10日に短縮したりと、なかなか優秀といった印象であった。細菌とは違って、ウイルス感染症の治療は特異的なものが少なくて難しい —— そんな中でのエビデンスなので、上出来なんじゃないかと感じた。

Covid-19–related hospitalization or death from any cause occurred in 18 of 1355 patients in the REGEN-COV 2400-mg group (1.3%) and in 62 of 1341 patients in the placebo group who underwent randomization concurrently (4.6%) (relative risk reduction [1 minus the relative risk], 71.3%; P<0.001); these outcomes occurred in 7 of 736 patients in the REGEN-COV 1200-mg group (1.0%) and in 24 of 748 patients in the placebo group who underwent randomization concurrently (3.2%) (relative risk reduction, 70.4%; P=0.002). The median time to resolution of symptoms was 4 days shorter with each REGEN-COV dose than with placebo (10 days vs. 14 days; P<0.001 for both comparisons).

 

 

さて、抗体カクテル療法。懸念が全くないでもない。というのも、外来管理できるCOVID-19症例ということは、軽症症例ということになるわけだが、症例数は馬鹿にならないだろう。そして、抗体カクテル療法は名前の通り抗体を使うわけだから、当然高価格に懸念がある。経済面で果たして保つのだろうかという心配がどうしても出てくる。日本の医療は、諸外国に比べて異様に手厚いからな……(医者に「頭のCT撮ってほしいです」と言って「はいそうですね撮りましょう」となる国は日本だけなんじゃないかな)。

 

金といえば、米国なんかはハイパーインフレ予防のために国債発行の上限を定めているのだが、その上限に2021年10月中に達してしまいそうになっている(米国債務上限問題)。COVID-19流行の影響で雇用が減り、物流に支障を来たしていることが主な要因で(原油価格が高騰中)、そこに自然災害とかも加わって……ということなのだろう。バイデン政権のもとで暫定予算案が可決され、とりあえずは連邦政府の閉鎖を回避しているが、これも所詮は時間稼ぎに過ぎない。要するに、米国はもう金銭的に無理が効かない状況になっているということだ(こうなると、英米三国同盟(AUKUS)もどこまで機能するのやら)。「日本は二流国になってしまったかぁ」と天を仰いでいる人も多かろうが、米国も盤石ではないということにハッと気づかされた出来事である。今回はなんやかんやで乗り切ってくれると期待するが……(それとも自分は心配しすぎなのかなぁ)。

 

COVID-19は急性期には医療逼迫を招き、直接的に人を殺めた。第6波の懸念もある。しかし、同時にCOVID-19の慢性的な影響が顕在化してきた。経済がどんどん壊れている。SARS-CoV-2が間接的に人を殺め始めているのだ。パンデミックは人を二度殺すというこの光景を、感染症内科医の若手としてしかと両目の奥に焼きつけておこう。