つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

ビジョナリー・カンパニー

大学生時代からかなり強く意識していたものの、なかなかきっかけを掴めず読めずにいた本をついに読むことができた。「ビジョナリー・カンパニー」—— ぼくと同世代の医者で東大医学部出身なら、某先生の愛読書ということで知らぬ者のいない本だと思う。この某先生、自分に初めて感染症診療とは何たるかを教えていただき、かつ自分の進路に間接的だが極めて大きな影響を与えた存在でもある。三人目の師匠とも呼べる人物の愛読書となれば、弟子にあたる自分が読んでいなかったのもおかしな話ではあるが、案外「師匠の愛読書」というものを弟子は敬遠してしまうものなのだ。

 

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疲れていても読まずにはいられない、そんな魔力のある一冊 @京浜東北線

 

最近、『ビジョナリー・カンパニー ZERO』(日経BP)が発売された。書店で平積みになっており、電車の広告でも宣伝されているものだから、嫌でも日々視界に入ってくる。あまりにも自分に対して主張が強すぎるものだから、「これはもう観念して読むしかないな」と思って、手に取ったわけである。昔の師匠をリスペクトする気持ちも込めて、図書館で借りるのではなくて素直に買った。

 

「ビジョナリー・カンパニー」シリーズに限らず、経営学の本はどちらかというと避けてきたところがある。例えば、みんなが絶賛するドラッカーの『マネジメント』なんかは読んでみたものの、あまり良さが分からなかった。「リーダーとして当たり前のことしか書いてなくないか?」という感じで。それに、(他の経営学の本もそうなのだが)自分は経営学よりも帝王学とか歴史の本の方が好きなのだ。伊藤肇の『現代の帝王学』(プレジデント社)、ニクソンの『指導者とは』(文春学藝ライブラリー)みたいな本の方が、ドラッカーよりも実戦的でしっくり来るというか……。

 

そういうわけで、『ビジョナリー・カンパニー ZERO』もどれくらい得るものがあるものか、疑問に思いながら読み始めたのだが、序盤から引き込まれてしまい、500ページ以上ある本なのに気がつけば3日で読み終えていた。夢中になっているうちに終わってしまって、経営学をもっと勉強してみたいという気持ちになった。そして、これまで自分が出会ってきた「名君」と呼ぶべき人物の共通点も、この本を読んでいる中で浮かび上がってきたように思う。

 

この本を読むと、リーダーシップに関する様々な謎が解説されている。

  • 組織が先か、人材が先か?
  • 伸びやかであることと放任主義はどう違うか?
  • 質の管理ができていることとマイクロマネジメントはどう違うか?
  • ビジョンとは何か? 理念・目標・課題とは?
  • 成功の裏面は本当に失敗か? 良い失敗・悪い失敗とは?
  • 革新的であるために特殊な条件(人材など)は本当に必要か?

これらの容易ならざる諸問題に対して、現実的でストンと腑に落ちる解説がなされているところがこの本の凄いところ。長くなるので詳細は割愛するが、気になった方は是非読んでほしい(非常に文章が綺麗なので、ぼくが解説するよりも実際に本を読んでしまった方が分かりやすいと思う)。比較的平易に読めて、納得もしやすい本なのだが、繰り返しリーダーの心得として読み返しておきたい本でもある。他の経営学の本にありがちな机上の空論感が全然なくて、狐につままれた感じも一切しないところが素敵だ。

 

ところで、『ビジョナリー・カンパニー ZERO』を読んでいると、なんだか心が燃えてくる。心の奥底から、何かが静かに青々と燃え上がってくるような感覚。著者であるジム・コリンズの「人間や組織は果てしなく成長し続けることができる」という主張に心を揺り動かされていたのだろう。そう、成長に終わりはない —— これほど力強く人生を肯定するメッセージもなかなかない。この本は、閉塞感漂う現代社会における希望の人生哲学と言っても良いわけで、今後も擦り切れるほど読み込みたいと思わせる一冊であった。

 

追記:そういうわけで、最近は医療従事者にとっても経営は避けて通れない問題だと考えるようになった。「COVID-19に医療従事者が苦しめられているのは国のせいだ!」と嘆く医療従事者は多い。そう嘆く医師の中には管理職の人間も結構いるわけだが、それと全く同じ類の感想を管理職に向けて抱いている現場医師も実は少なくない(どこの医療機関でもこの点はあまり例外がないように見える)。人の振り見て我が振り直せ —— 自分が将来(万が一)管理職になってしまうような事態が生じたら、現場から見て無能な管理職にはなってはいけないなと、今の混乱した医療現場を見ながら感じている。もっとも、ピーターの法則に抗うのも難しいと思うので、自分だったら人生の裏技「創造的無能」を行使するかもしれないが……。

 

参考:筑波大学附属病院に来てから印象に残っている書籍(* 購入)

  1. 『峠』(新潮文庫)*
  2. 『現代経済学の直観的方法』(講談社)*
  3. 『スライトエッジ』(きこ書房
  4. 『生活の発見』(フィルムアート社)
  5. 『無気力の心理学』(中公新書
  6. 『2030年』(NewsPicksパブリッシング)
  7. 『2040年の未来予測』(日経BP
  8. 『ビジョナリー・カンパニー ZERO』(日経BP)*

1. 人間の生きざまの模範。2. 資本主義というルールを知らずに現代を生きることが如何に危ういか。3. 複利効果や逆複利効果を味方につけると大事を成し遂げられる。4. 現代人にとって当たり前の価値観には戦いの歴史がある。5. 人間のやる気スイッチの所在を知る。6. 世界と戦うことがどういう意味なのか覚悟が決まる。7. 沈みゆく日本という国で最後まで生き延びるための知恵。8. 永久不変の成長哲学。

(図書館に通っていると、お金をかけなくてもたくさんの素晴らしい本と出会うことが出来て、とても幸せな気持ちになれる)