つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

唐突ながら、チューリッヒ

病院総合内科は、これまで臨床研究、症例報告、オピニオンなどを数多くpublishしてきましたが、その多くが単施設、それも病院総合内科だけに限局した内容でした。国際共同研究どころか、国内多施設研究すらやってこなかったわけです。ところが、実は現在、病院総合内科はチューリッヒ大学とMondor's diseaseに関する国際共同研究を進めています。1年くらい前から進めていたプロジェクトなのですが、ヨーロッパでのCOVID-19流行状況がかなり芳しくなかったことから、少し遅れ気味に進んでいます。

 

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大学病院裏にある「フライパン」、家庭的で良心的な老舗でほっこり。

 

そもそもどういう経緯でこの研究プロジェクトが始まったかというと、ある日 自分宛てに届いた怪しげな(?)メールがきっかけでした。アジア系の名前の人から、「あなたの論文を読んだ。一緒に研究しましょう」みたいな、割と軽いノリのメールが来て、その末尾にチューリッヒ大学と書いてあったわけです。しかし、チューリッヒ大学のホームページを読んでも、そんな名前の研究者はいない。怪しいなーと思って、チューリッヒ大学の当該部署に「こんな人がチューリッヒ大学を騙っているんですけど、心当たりはありますか」みたいなメールを送ったところ、程なくして「彼は当院からドイツに留学に出している者です。迷惑メールではなくて正式な共同研究の依頼です」というメールが返ってきて、その翌日に最初の人から「説明不足ですみませんでした。私はかくかくしかじかの者です。改めて、チューリッヒ大学と一緒に研究しませんか」とメールが届いたわけである。

 

正直、「唐突に無茶苦茶な話だなぁ」とか「前例がないなぁ」とか感じながらも、是非この機会に国際共同研究なるものを経験したかったので、病院総合内科のメンバーに参加して良いか朝カンファの時に相談したところ、(全員が一瞬困惑した顔を浮かべつつも)10秒くらいで満場一致の快諾をいただいて、そこから病院総合内科とチューリッヒ大学との連携が始まった次第です。創立から僅か4年(当時)の新興診療科がチューリッヒ大学と共同研究しているなんて聞くと、なんだか胸が躍りませんか。こういった前例がないことに寛大なのが病院総合内科の強みなんじゃないかなと個人的には思っています。そして、国際共同研究の始まりがこんなにアッサリしたものだと知ることで、多施設共同研究に対する心理的ハードルもだいぶ下がってしまうわけです。

 

そういうわけで、1年ほど前から、ひょんなことからスイスとの共同研究がスタートしています。ただ、プロトコル整備まで時間的猶予があったので、病院総合内科からMondor's diseaseの単施設研究を実施して、論文化までできてsubmitしてしまったところです(チューリッヒ大学的には一応、OKらしい)。さらに、現在はCOVID-19流行状況が国ごとに異なり過ぎていて足並みも揃わないのですが、将来的にこのプロジェクトはスイスだけでなく、ギリシア、トルコ、フランスと5か国共同研究へと広げていく予定です。こうすることで、エキスパート・オピニオンばかりが独り歩きしているMondor's diseaseの実態をもう少しエビデンス・ベースで明らかにしていけるのではないかと考えています。

 

ところで国際共同研究をやっていると、副産物として各国の政治・経済的な情勢がリアルタイムで入ってくるところも面白いと感じています。日本のニュースしか見ていないと、「ヨーロッパでは多くのCOVID-19症例を抱えながらも上手く共存できている」みたいな錯覚を受けてしまうのですが、全くそんなことはなく、医療現場では(日本と同じように)怨嗟の声が上がっているようです。また、ウクライナ情勢の話もヨーロッパ全体の問題なので、当然ながら緊迫感がメールの文面から分かります。生の声にはノイズやデマも多いと思いますが、そこに生きる人間の息遣いを感じ取ることができて、海外ニュースを見るのとは違う良さがあるように感じています。

 

日本で生活を完結させていてもそれなりに人生は楽しめると思いますが、海外とつながるのも思ったほどには大変ではないですし、見たことのない景色を見せてくれるという意味では非常に有意義だなと感じた次第です。

 

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関係ないけど、半年以上前の査読の謝状(めちゃ頑張った)。励みになります