つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

シロスタゾール

病院総合内科で患者さんの治療方針を決める際は、なるべく海外文献をもとにディスカッションすることを心掛けていますが、そうしていると日本で古くから行われているけども海外では基本的にやらないようなプラクティスが目に付くようになります。そのうちのひとつに、シロスタゾール(プレタール®)という薬剤があるのですが、これは日本で多く使われている薬で、海外ではあんまり使わないようです。抗血小板薬といって、脳梗塞の患者さんで脳梗塞をもう一度起こさないようにとか、そういう目的で使うことが多いですね。俗に「血をサラサラにする薬」とも呼ばれています(あんまり良い言い方ではないですが、もっと分かりやすくてキャッチーな言い方が思い浮かばないのが辛いところです)。

 

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つくば駅前も桜が咲いています!

 

それで、シロスタゾールは役割的にはアスピリンと似ているのですが、副作用が結構独特です。心拍数が上がって動悸を起こしたり、更年期障害にも似たのぼせるような感覚(ホットフラッシュ)を引き起こしたりすることが知られています。こういった副作用ゆえに、一般的にはシロスタゾールよりもアスピリンの方が使いやすいのですが、それでもシロスタゾールを敢えて使う場面があるのが面白いところです。

 

例えば、シロスタゾールで動悸する副作用を逆手にとって、洞不全症候群(ざっくり言えば、心臓の動きが遅くなる病気)に使うことがあります。心房細動で時々頻脈発作を起こしてしまう患者さんが病院総合内科には結構入院するのですが、そういった患者さんに対してはβ遮断薬といって、心拍数を抑える薬をよく使っています。ところが、その薬で心拍数を抑え込みすぎると、今度は心拍数が低くなりすぎてふらついたり失神したりと、危ないことが起こってしまうわけです(徐脈頻脈症候群)。そういった患者さんに対しては、シロスタゾールを少量(50 mg/日)から使って対応しています。だいたい、効果は半日から1日くらいで出てくる印象で、患者さんにもよるのですが、心拍数 40回/分の人であれば60回/分くらいまで回復するイメージがあります。

 

洞不全症候群の患者さんを集めてシロスタゾールを使うとどうなるのか、科学的にディスカッションしようという動きもあります。洞不全症候群はペースメーカーを植え込む必要のある病気ですが、体に機械を入れるのに抵抗のある患者さんは決して少なくありません。そういった患者さんに対してシロスタゾールを使うと、ペースメーカーを植え込むのを回避できるのではないか、というわけです。


他に最近知って驚いたのは、シロスタゾールが脳梗塞後の誤嚥性肺炎予防になるかもしれないという話です。とある患者さんが徐脈(心拍数が低い)でもないのにシロスタゾールを使っていて、なんでだろうと思ってそれまでの主治医に問い合わせたら、「誤嚥性肺炎のガイドラインに載っているよ!」とのことでした。確かに、簡単に調べてみると『脳卒中治療ガイドライン2009』(※旧版)の「嚥下性肺炎の予防」のところに書いてありました。実際にその裏付けになる臨床研究も存在するようです(後ろ向き研究といって、凄く質の高い研究というわけではないです)。ただ、そのメカニズムは正直よく分かりません。

 

これまで紹介した文献が日本人の手によるものばかりであるという点には注意が必要です。海外で研究したら意外と有用性を証明できるかもしれない反面、日本でしか結果が出ていないところにある種の胡散臭さを感じるところもあります。さらに、シロスタゾールは心疾患を抱えがちな高齢患者さんだと禁忌に抵触してしまうことも少なくなく、これまで行われたシロスタゾール関連の臨床研究の中にも倫理的に問題があるのではと感じるような研究が幾つかあります。そういった問題点はあるものの、シロスタゾール、なかなかマニアックで興味深い薬だと思います。

 

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つくば市竹園のパン屋さん、軽食気分の時に如何でしょう?

 

はたらく心得

年度はじめということで、Twitterを眺めていると「社会人の心得」を投稿している方が結構多いですね。便乗して自分も書いてみました。

  • 午後17時には仕事を切り上げる。切り上げられないなら、切り上げられるよう仕事を効率化する、あるいはシステムを変える。仕事そのものが間違っている可能性も一度は考える。
  • 仕事や待遇に不満があれば、一度は周囲に相談して解決策を議論する。それで状況を変えられない場合は清々しく辞めて他の場所に移る。
  • 業務は心身が冴えわたった状態で行う。最大限の集中があれば、ほんの30分で3時間分の仕事を終えられる。
  • 分からないことがあったら積極的にカンニングする。堂々とカンニングできない人は、いつまで経っても向上しない。
  • メリットのあることだけを行う。メリットが一切ないことは、たとえデメリットがなくても、やらない。
  • 「ホウレンソウ」は令和の世でも大切だが、その型稽古(プレゼンテーションの練習)をしっかりと。
  • 「あの」「その」「えーっと」などの口癖を撲滅する。大舞台では、無駄口の数で実力不足が露呈する。
  • 帰宅後のアフター・ファイブを充実させる。仕事以外のスキル・人脈を得るための余暇を十分に作る。1日の労力をルーチン業務に使い果たすことなく、その20%以上を確実に未来への投資に回す。
  • 何事も競争して勝つのではなく、不戦勝を目指す。戦術で勝つのではなく、戦略で勝つことを考える。戦略の失敗を戦術では取り戻せないが、戦術の失敗を戦略でカバーするのは割と簡単。
  • 失敗で落ち込む暇があれば代わりに教訓化する。当時の情報のみでシミュレーションし直し、決断の分岐点を洗い出せるまで繰り返す。