つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

マンモスの化石で元気になれるか検証中

医者として、臨床・教育・研究・執筆と多方面で仕事をするのはなかなか大変だ。「人間には1日24時間しか与えられていない」というのもそうなのだが、自分の場合はそれ以前にスタミナが足りていないので、早朝の数時間くらいしか絶好調で仕事ができないという問題がある。自分よりも5年くらい上で世間的に名前の通った先輩方が「時間が全く足りない」と嘆かれているのをよく見かけるが、自分の場合は「時間以前にスタミナが全く足りない」という悩みがあるわけだ。自分に1日あたり48時間を与えられたとしても、有効活用できる自信はない。

 

城藤茶店の「お餅のワッフル」、パリッとモチモチな斬新食感

 

そもそも自分にとっては、9時~17時で集中力を維持することが困難なので、周りの医療従事者が「普通に」日々の仕事をこなしている事実ですら衝撃的なのである。もし自分が17時までまともに仕事をするのであれば、昼寝は必須だ。しかし、昼寝のやり方が下手だと、今度は頭を再覚醒させるのが非常に大変で、そのための無駄な時間が発生してしまうのも悩ましい。「普通に」仕事をするのは、正直とても難しい。それでも、我々は「普通に」仕事をしなければいけない。

 

体力のない人間が人並みに仕事をするためにはどうしたら良いのだろう —— これは非常に切実な問題だ。早寝して睡眠時間を確保しようにも、就寝時刻を前倒しにすると逆に眠れなくなってしまい、かえって寝不足で疲弊してしまったこともあった。また、食後の眠気対策のために食事量を控えめにすると、短期的には活動性を落とさずに済むのだが、長期的にはじわじわと馬力が衰えていってしまうものだ。そういうわけで、なかなか良い解決策がない(だけど、解決しないといけない)。

 

GW中はガッツリ読書していた! 慣れないテーマも織り交ぜながら……

 

最近の試みとして、漢方薬によるセルフメディケーションを始めた。もともと(東大医学部の授業をサボって)慶應薬学部に通って漢方医学をみっちり勉強してきた身ではあるので、『傷寒論』や『金匱要略』に載っているような漢方薬はある程度うまく扱える自信がある(自分に対しては……)。これまでは、本当に体調が悪い時しか漢方薬によるセルフメディケーションをやっていなかったのだが、最近は調子の絶不調に関わらず、その時の身体のコンディションに応じて適した漢方薬を選択して定時で内服するようにしているわけだ(徳川嫌いなのに、家康公の真似をしている……)。もちろん、偽性アルドステロン症という副作用はあるので、脚がつったりむくんだりしたら、休薬するつもりだが。

 

自分は東洋医学的に言えば、虚証体質で、メインは気虚。そこに気逆と水毒が少し併存しているようなコンディションだ。そして腹直筋攣急や腹部動悸が日常的にある(このあたりは全部テクニカルターム)。こういった情報を統合した上で、桂枝加竜骨牡蛎湯[けいしかりゅうこつぼれいとう]を常用するようにしている。桂枝加竜骨牡蛎湯というのは、お腹が弱い人の風邪薬として頻用される桂枝湯に竜骨(マンモスの化石)と牡蛎ブレンドした漢方薬だ。この漢方薬を、最近は毎食間に飲むようになったのだが、そうしているうちに急に集中力が切れたり、急に睡魔に屈したりということが起こらなくなったところがなかなか面白い。こういった具合に、自分の体質に合った漢方薬が見つかっているというのもなかなか幸せなことだなと感じる —— まぁ、プラセボ効果が半分くらい入っているかもしれないけれど、それはそれでよかろう。

 

もちろん、桂枝加竜骨牡蛎湯以外の漢方薬を使うこともある。例えば、医療従事者をやっていると、一度に大量のストレスに暴露されて強烈な鬱へと押し込まれるイベントが定期的に発生する(生身の人間を相手にする仕事なので致し方ない)。けれどもそんな時に憂鬱気分を引き摺ってしまっては仕事が手につかないので、速やかに気持ちをリセットしなければならない。そんな時に、虚証の自分が飲む薬が加味帰脾湯[かみきひとう]である。よく分からないのだが(オキシトシン分泌刺激が関係??)、自分の場合は加味帰脾湯を内服すると憂鬱気分を一瞬で吹き飛ばすことができるのだ。おまけに、黄耆と人参が入っているので体の疲労も軽減する効果もある。そういうわけで、これも自分の体質に合った漢方薬なのだろう。

 

漢方医学を学ぶ意義は色々とあるとは思うのだが、自分の場合はセルフメディケーションに使えるというのが一番大きい。もちろん、内科外来で患者さんに処方することもあるし、患者さんからそれで喜ばれることもしばしばあるのだが、最も効果を実感しやすいのは自分自身に使った場合だ。そういうわけで、漢方医学を学ぶ際には是非自分でも漢方薬を煎じて飲んでみることをおすすめしたい。昔は株式会社ツムラが主催する勉強会なんかでよく煎じ薬が配られていたのだけれど、最近はどうなっているのだろうなぁ。

 

漢方薬を勉強するコツ? それは、❶ 漢方薬を実際に自分で飲んでみること(お腹を壊しながら学ぶ)、❷ 漢方薬を構成生薬に分解して各生薬の役割を確認した上で漢方薬全体としてどんな効果になるのかに思いを馳せること。特に、構成生薬の役割を勉強する時には、ひとつの生薬だけに着目するのではなく、複数の生薬の組み合わせに着目するのが良いと思う。例えば『薬徴』によると、甘草は単独で「急迫を治す」と書かれているのだけど、これを桂皮 + 甘草の組み合わせにすると「気逆を治す」という新たな意味合いを帯びてくるのだ(田畑隆一郎『傷寒論の謎 二味の薬徴』)。そういう目で桂枝湯とか葛根湯などを見てみると、急性期に使えそうな漢方薬だなー、風邪に伴う頭痛とか気持ち悪さも多少は緩和してくれるのかなーというふうに想像できるわけ。実は漢方医学って驚くほど理詰めの学問なのだけれど、なかなか理解されていなくて勿体ないなぁと感じている。実際に勉強してみると、ロジカルな人ほどハマるのではなかろうか。

 

春になって、メダカも産卵するように(白いのは無精卵)