つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

ひとり漫才

割と近いうちに本拠地を異動する予定ということで、普段週に1回通っている外勤(アルバイト)先の病院もやめる予定である。この外勤先では一般内科外来をやっていて、長い(とはいっても3年程度の)付き合いの患者さんもたくさんいるわけだが、この顔馴染みの患者さんたちにも別れを告げなければならない。そういうわけで、外勤先に来るたびにひとりひとり丁寧に、自分がいなくなることを説明して、他の医師に引き継いだり、他の病院に引き継いだりと、これまでの自分の診療の後始末をしているところだ。

 

大好きなハンス・ホールベック、物価上昇の影響をモロに受けてしんどそう

 

患者さんの反応も様々だ。「あっそうなのー」という軽い反応から、「ようやく慣れてきたと思ったのに!」という残念な反応まで、いろいろなリアクションが返ってくる。ただ、圧倒的に多い反応が「年に数回のひとり漫才を聞けなくなっちゃうのかー!」というもの —— いやぁ、ひとり漫才とは実に複雑な気持ちだ。それで「じぶん、そんな面白いっすか?」と聞くと、「めちゃくちゃ面白いですよ、先生クセ強すぎじゃないっすかー」とのこと。「見ていて思わず吹き出しそうになりますもん」なんて言われるから、「噺が仮に面白くても病気を治せない医者にはなりたくないんだよなー」なんてボヤきながら頭を搔いていると、「笑いの力で病気を治しているからいいんですよ」と気を遣われてしまう有様だ。ここまでがテンプレ。人間の着ぐるみを被ったC3POかなんかだと思われているんじゃなかろうかと思わず勘ぐってしまう。

 

とはいえ、自分と会うことで(プロセスはどうであれ)患者さんの人生がポジティブな方向へ向かってくれるのであれば、それに勝る喜びはない。医術よりも笑いの力で治す一般内科外来ってどうなんだろうと思ってしまうが、治るのならそれはそれでいいやと開き直ることにした。この際、医術の腕の未熟さも笑い飛ばしてやろう。とはいえ、他の意見も聞きたいなと思って外来看護師さんに聞いてみると、「あれが面白いかは分からないけど、少なくとも普通の外来ではないですよねー(苦笑)。まぁ、いいんじゃないですか」と言われた。そりゃまぁ、当の本人から真面目な顔で質問されたら返答にも困るものだわな。

 

なるほど、東大感染症内科時代に同僚や上司から「YouTuberになりなさい!」と言われ続けているのもこのあたりが関わっているのかもしれない。正直、YouTuberになるつもりなんてないのだが、実際にやってみたらどうなんだろうなと迂闊にも考えてしまった。それで、筑波大学で一緒に仕事をしている感染症科のT先生に「YouTuberってどうですかねぇ?」と聞いてみたら、市場規模や音響設備など、いろいろな情報を教えていただいた。要約すると、チャンネル登録者を集めるのは “無理ゲー” という結論だ。ただ、人生いろいろと経験してみるのは悪いことでないというのも自分の考えである。奥さんからも「YouTuberやってみなよ」としきりに言われるので、書店に足を運んで動画編集技術の書籍を手に取ってみるわけだ —— それでやっぱり、金銭面・時間面・技術面で "無理ゲー" という結論を再確認するわけ。「簡単にできる!」みたいな謳い文句の本を開いては2分で撃沈というのを繰り返していると、だんだん虚しくなってくるものだ。

 

なぜYouTuberになるつもりがないのに、わざわざ方法を調べて、あわよくばYouTuberになろうまでとしているのかって……? 大きな理由としては、最近になって執筆業が増えてきたことが挙げられる。出版物の原稿は一般に、(特に後世に残すとなると)比較的堅い文体で書かなければならないものなのだが、「口頭ならもっと分かりやすく説明できるのに!」と口惜しく思う時がしばしばあるものだ。例えば、AmpCというβラクタマーゼを説明する時には「Serratia spp.,Citrobacter spp.,Enterobacter spp.の一部の菌種は染色体上にampC遺伝子を持っており、in vitroで第三世代セフェム系抗菌薬に感受性ありと報告されても、治療中にAmpC βラクタマーゼの過剰産生を招いて失敗に終わることがある」なんて書くことが多い。が、これだと感染症医以外にとっては非常に難解だ。しかし、文語でこのくだりを分かりやすく書くのもなかなか難しい。そんな時に、YouTuberだったら比喩表現を駆使して医学生にも分かるようにAmpCを説明してしまうんだろうなぁなんて考えてしまうわけ。

 

もちろん、目標達成のためには、必ずしもYouTuberである必要はない。執筆業とシナジー効果のあるメディアなら多分なんでも奏功する気がする —— 例えば、画像なしの音声だけで攻める方法もあるし、編集なしのパワポベースで動画を作成する方法もあるのだろうが、これまた技術面でピンと来ない部分があるのが辛いところだ。ここに来て、自分が極めて保守的な人間であることを痛感させられるのである。保守的な人間が新しいことにチャレンジするには、そういった事柄に精通した人間が周りにいないとなかなか厳しい。自分にできないことをサポートしてくれる人を本当に大切にしないとなと改めて感じるわけである。そういうわけで、何かアイデアがある人は是非教えていただけるとありがたい。自分も上手い人を探して研究してみようかな。