つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

《内科専門医試験》神経内科まとめ

内科専門医試験対策の一環でまとめていたノートを順次公開している。今回は神経内科、もし間違いを見つけたら教えていただけると幸いである。なお、「脳梗塞は脳の血管が血栓などで詰まって起こる」みたいな基本知識は全然入れていなくて、個人的に「面白いなー」とか「忘れがちだなー」というところだけまとめている(USMLEの問題集や論文で見た知識も入れているので、内科専門医試験に完全準拠しているわけではない!)。あと、定番問題も取りこぼしなく反映しているわけではないので、そこは学会公式または市販の問題集などで補ってもらえるとありがたい。一応、2022年の試験で出題された部分には★をつけておいた。

 

神経解剖など
錐体路皮質脊髄路):大脳中心前回 → 内包後脚 → 中脳大脳脚 → 橋縦束 → 延髄錐体交叉 → 脊髄側索・前索 → 脊髄前角 ★
同名半盲は、視索外側膝状体もしくは後頭葉視覚領野の障害で発症
・ ブラウン・セカール症候群(脊髄半側症候群):障害部位以下の対側温痛覚障害、障害部位以下の同側深部感覚障害、障害部位の同側弛緩性麻痺、障害部位以下の痙性麻痺
・ 鷲手は尺骨神経麻痺、下垂手は橈骨神経麻痺、猿手は正中神経麻痺 ★
※ 語呂合わせは「ワシ加藤にまさる」、各神経の支配域も覚えとくとよい?
・ フローマンサイン:両手の母指と示指で髪をつまんで反対側に引っ張ると母指第一関節が屈曲する現象 → 尺骨神経麻痺(肘部管症候群)
・ 神経生検は腓腹神経で行う

脳波
・ 健常者ではβ波
・ 安静閉眼時には後頭部優位にα波
・ 高齢になるとα波が減少
・ 入眠時にはθ波
・ 過換気では高振幅の徐派化あり(build up)

スコアリング
・ ABCD2スコア:年齢 >60歳(1点)、血圧 >140/90 mmHg(1点)、臨床所見(片麻痺2点、構音障害1点)、持続期間(60分以上2点、10~59分1点)、糖尿病(1点)の合計7点(TIAから2日以内の脳梗塞発症率:0~3点 1.0%、4~5点 4.1%、6~7点 8.1%)
※ 「エービーシーディースクエアスコア」と読むことは意外と知られていない
・ CHA2DS2-VAScスコア:うっ血性心不全(1点)、高血圧症(1点)、年齢 >75歳(2点)、糖尿病(1点)、脳梗塞またはTIA(2点)、血管疾患(1点)、年齢65~74歳(1点)、女性(1点)

脳梗塞急性期
・ 低酸素血症がなければ酸素療法は非推奨
脳梗塞に伴う高血圧は、血栓溶解療法の文脈を除けば、降圧は非推奨
・ 体動困難症例における深部静脈血栓症予防として、間欠的空気圧迫法が推奨 ※弾スト非推奨
MRIミスマッチ下での血栓溶解療法は「考慮してよい」
・ t-PAの禁忌は確実に:① 発症 >4.5時間、② 非外傷性頭蓋内出血、③ 1か月以内の脳梗塞TIA除く)、④ 3か月以内の重度の頭部・脊髄外傷 or 手術、⑤ 21日以内の消化管・尿路出血、⑥ 14日以内の大手術 or 頭部以外の重症外傷、⑦ 治療薬過敏症、⑧ クモ膜下出血(疑い含む)、⑨ 降圧後血圧 >185/110 mmHg、⑩ 大動脈解離、⑪ 重度肝障害、⑫ 何らかの出血合併、⑬ 膵炎、⑭ 血糖値 <50 mg/dL or >400 mg/dL、⑮ PT-INR >1.7、⑯ Plt <10万/μL、⑰ APTT >40秒、⑱ 頭部CT所見(early CT sign, midline shift)
アスピリンの経口投与は発症早期(48時間以内)の脳梗塞患者の治療として妥当、抗血小板薬の2剤併用は非心原性脳梗塞患者の亜急性期(1か月以内を目安)の治療法として推奨
・ エダラボンは脳保護作用が期待されるので急性期脳梗塞患者の治療として検討
・ 低体温療法は有効性未確立なので非推奨

一過性脳虚血発作(TIA
TIAを疑った場合は発症機序を評価してそれに見合う予防治療をただちに開始
TIA急性期(発症48時間以内)の再発防止にアスピリン160-300 mg/日の投与が推奨、さらにABCD2スコア4点以上では急性期(3週間)に限定した抗血小板薬2剤併用療法を検討
・ 急性期以降のTIAに対する治療は、脳梗塞の二次予防に準じて行うことが推奨

脳梗塞再発予防
・ 非心原性脳梗塞の再発予防に、長期の抗血小板薬2剤併用は、単剤と比較して最衣鉢抑制効果が証明されていないので非推奨
・ 出血時の対応が容易な処置・小手術(抜歯、白内障手術など)の際には、アスピリン内服継続が推奨、他の抗血小板薬の内服継続も要検討
・ DOACを使用可能なAf症例ではワルファリンよりもDOACが推奨
・ 非心原性脳梗塞TIA発症予防の時のLDL-Cは、100 mg/dL未満が推奨で、スタチンの効きが悪ければイコサペント酸製剤の併用も要検討

ワレンベルグ症候群(延髄外側症候群) ★
・ 椎骨動脈や後下小脳動脈の閉塞、椎骨動脈解離が原因
・ 病側の顔面の温痛覚障害あり、深部感覚障害や錐体路障害は一切なし
・ 構音障害、嚥下障害などの球麻痺症状を伴う

 

 

失語症
・ Broca’s aphasia resulted from left sup. MCA stroke
・ Wernicke’s aphasia resulted from left inf. or post. MCA stroke
・ 復唱だけができない → 伝導性失語(頭頂葉
・ 復唱はできる → 超皮質性○○性失語(○○ = 運動 or 感覚)

認知症
・ MMSE ≤27で軽度認知症(MCI)疑い、≤23で認知症疑い
・ HDS-R ≤20で認知症疑い
・ 軽度認知症(MCI)とは、認知機能低下の訴えがあり、認知機能正常でないが、認知症の診断基準を満たさない状態のこと(基本的日常生活動作はほぼ問題なし)
アルツハイマー認知症の重症度:(MCI)記銘力障害 →(軽症)時間の見当識障害・水高機能障害・自発性低下 →(中等症)場所の見当識障害・物とられ妄想 →(重症)人物の見当識障害・着衣失行・失禁
・ ドネペジルとメマンチン(NMDA受容体拮抗薬)は、重度のアルツハイマー認知症で適応あり(軽度の場合は×)
レビー小体型認知症に適応があるのはドネペジルだけ(×メマンチン)
認知症の行動・心理症状(BPSD)への非定型抗精神病薬は死亡率増加あるので、極少量・有症状期間のみの投与とするべき

パーキンソン病
・ 旧4大症候:左右差のある安静時振戦、筋強剛、運動緩慢、姿勢保持反射障害
・ 改訂ガイドラインでは、診断に運動緩慢が必須、他に安静時振戦か筋強剛のどちらかが見られるものをパーキンソニズムと定義(姿勢保持反射障害は定義から外れているので要注意)
・ 安静時振戦は精神的負荷で増悪する
・ 早期症状は、RWM睡眠行動異常症と自律神経障害
・ 嗅覚障害はパーキンソン病の90%に認められ、パーキンソニズムの他原因疾患との鑑別に有用
・ ホーエン・ヤール分類:Ⅰ度は片側に軽い震えや強剛、Ⅱ度は両側に震えや強剛、Ⅲ度は小刻み・すくみ足歩行、Ⅳ度は起立・歩行困難、Ⅴ度は車いす必要
※ ホーエン・ヤール分類Ⅲ度以上が指定難病扱い
・ DATスキャンでの線条体取り込み低下、MIBG心筋スキャンでの集積低下が診断に有用(MSA-PではMIBGシンチ正常~軽度低下であることが多い)
・ L-DOPAで治療開始だが、起立性低血圧に有害事象報告あり
・ 起立性低血圧の治療として、ドロキシドパ、ミドドリン、フルドロコルチゾン
ドパミンアゴニスト:非麦角系のプラミペキソールやロピニロールは突発性睡眠の報告があるので運転禁止、麦角系のペルゴリドやカベルゴリンは心臓弁膜症の報告あり
※ 麦角系は濁音が入る薬剤、非麦角系は濁音が入らない薬剤
Pisa症候群は、パーキンソン病で認められるジストニアで、立位や歩行時に出現・悪化する体幹の側屈などの姿勢異常だが、他動的な運動や背臥位で改善

 

Pisa症候群の動画はググると出てくるぞ

 

急性散在性脳脊髄炎(ADEM
・ 先行感染の症状改善後に出現する中枢神経障害
・ 症状としては意識障害が多いが、他に脳神経障害や錐体路徴候
・ 頭部・頚髄MRIではあらゆる中枢神経部位に異常が出現しうる
・ ミエリン塩基蛋白(MBP)は出現するが、オリゴクローナルバンド(多発性硬化症で陽性)や抗AQP4抗体(視神経脊髄炎で陽性)は出ない
・ 治療はステロイドパルス(3コースまで実施しうる)、他にIVIgや血液浄化も

多発性硬化症
・ 若年・中年女性に多く、日本では増加傾向
・ 空間的・時間的多発性の脱髄症状で、増悪寛解を繰り返しながら次第に増悪
・ 病型としては、慢性進行型と再発緩解型があって、前者の方が概して厄介
・ 視力障害として球後視神経炎、眼球運動障害としてMLF症候群、運動障害として錐体路徴候(四肢痙性麻痺・筋力低下、腱反射亢進、病的反射)、感覚障害としてレルミット徴候、膀胱直腸障害として反射(自動)膀胱が見られる
・ 有痛性強直性けいれんあり、ウートホッフサイン(体温上昇で増悪)
・ 80%の症例で視覚誘発電位異常あり
ステロイドは急性増悪には有効だが、慢性期には無効
・ なので、急性期を過ぎたらステロイドをやめる(⇔ 視神経脊髄炎ステロイド依存性)
・ 再発緩解型の再発予防にIFN-β、グラチラマー、フィンゴリモド、ナタリズマブが有効(一方で、慢性進行型だと効果が薄い)
・ ナタリズマブについてはJCウイルスによるPMLに注意

視神経脊髄炎
・ 40歳前後の女性に好発し、①3椎体以上に及ぶ連続的な脊髄MRI病変、②多発性硬化症の脳MRI基準を満たさない、③血清抗AQP4抗体陽性の3つ中2つ以上
多発性硬化症ではオリゴクローナルバンド陽性だが、視神経脊髄炎では陰性
・ 急性期はステロイドパルスと血液浄化療法、再発抑制にはステロイドやアザチオプリン、リツキシマブ

髄液糖比
・ 低下するのは、① 細菌・結核髄膜炎、② 真菌性髄膜炎、③ 癌性髄膜炎、④ 一部のウイルス性髄膜炎、⑤ クモ膜下出血、⑥ サルコイドーシス

蛋白細胞解離のある疾患群
・ 神経根部の蛋白透過性亢進:Guillain-Barre症候群、CIDP、糖尿病性ニューロパチー、Charcot-Marie-Tooth病
・ 髄腔内IgG上昇:多発性硬化症(×視神経脊髄炎;理由は謎)
・ 髄液還流障害:脊柱管狭窄症

重症筋無力症
・ 女性に好発、高緯度地域に多く、日本では欧米に比して少ない
・ 筋電図ではwaningあり、テンシロンテスト陽性、抗Ach受容体抗体陽性
・ アイスパック試験では、冷凍アイスパックを2分間まぶたに当てることで開眼しやすくなるかを診る
・ 抗Ach受容体抗体陽性例が85%で、この抗体価は重症度を反映
・ 抗Ach受容体抗体陰性例では抗MuSK抗体陽性例が多く、女性に多い・嚥下障害や筋無力症クリーゼリスクが高いなどの厄介な特徴が
キノロン系やアミノグリコシド系抗菌薬で増悪
・ 治療にはステロイドを使用;他の免疫抑制剤としてはアザチオプリンやシクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなど
ステロイド使用時には初期増悪現象があるので、少量から開始(ステロイドパルス療法はしない)
・ 重症例では血漿交換やIVIgなども行う
・ 対症療法としては抗コリンエステラーゼ薬(ピリドスチグミンなど)を使うが、半減期の短いエドロホニウムに関してはテンシロン試験での診断的利用に限る

Guillain-Barre症候群(GBS)とFisher症候群(FS)
・ FSの三徴:① 外眼筋麻痺、② 運動失調、③ 腱反射低下
・ 抗ガングリオシド抗体の組み合わせで予後予測:予後良好なのは抗GM1/GalNAc-GD1a複合体抗体、予後不良なのは抗GD1a/GD1b抗体や抗GD1b/GT1b抗体
・ GBSとFSのいずれもIVIgや血漿交換が治療、ステロイドはほぼ無効(CIDPはステロイド有効なので区別すること)
・ 類縁疾患としてBickerstaff型脳幹脳炎があってIVIgで治療、意識障害を伴い、抗GQ1b抗体の関与疑い

多巣性運動ニューロパチー
・ CIDP類似の上肢遠位筋優位の筋力低下を呈する慢性脱髄性末梢神経疾患
・ CIDPとの違いは、① 感覚障害を伴わない、② ステロイドが無効
・ 治療はIVIgだが、ALSあたりと誤診すると治療機会を逃すかも

筋ジストロフィー
・ Duchenne型(>5歳、重症、フレームシフトあり)もBecker型(青年期以降、軽症、フレームシフトなし)も、X染色体劣性遺伝
・ 筋強直性ジストロフィーや肢体型筋ジストロフィーは、常染色体優性遺伝
※ 外国人名のやつはXで、漢字で書くやつは常染色体優性
・ 筋強直性ジストロフィーは、DMPK遺伝子のCTGリピートの延長で生じ、心病変(心伝導障害、心筋障害)、中枢神経症状(認知症状、性格変化、傾眠)、眼症状(白内障、網膜色素変性症)、内分泌異常(耐糖能障害、脂質異常症)、前頭部脱毛、斧状顔貌などを認める ★
認知症状の原因疾患として出題されていたような……?
・ 頭部の筋肉を障害しない筋ジストロフィーは、Duchenne型、Becker型、肢体型の3つ

Charcot-Marie-Tooth病
・ 神経原性筋萎縮、逆シャンペンボトル様下腿筋委縮や鶏歩あり

トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー
・ 治療として、タファミディス・ジフルニサル投与と肝移植が有効

筋萎縮性側索硬化症
・ 陰性3徴候:排尿障害、感覚障害、眼球運動障害
・ 非侵襲的陽圧換気(NPPV)や気管切開下陽圧換気が推奨
・ リルゾールが有効だが、努力性肺活量 <60%に低下の場合は投与を控える
・ エダラボンも適応あるが、呼吸困難例・痰喀出困難例では慎重投与

水頭症
・ 原因としてトキソプラズマ感染が含まれる
・ 正常圧水頭症は緩徐進行性で高齢者に多い
・ 歩行障害・認知症・尿失禁が3徴候
・ CTでは脳室拡大所見以外に、脳室周囲低吸収域(PVL)がみられる
・ 治療として減圧・シャント手術 —— 髄液タップテスト(腰椎穿刺)で症状改善

孤発性Creutzfeldt-Jakob病
・ 確定診断(definite)はあくまで病理検査が必要で、RT-QUICによる診断はせいぜいprobableまでに留まる(他マーカーは参考所見に過ぎない)
・ マーカー検査として、特異的な順から髄液・鼻腔RT-QUIC、尿PMCA、髄液14-3-3蛋白、髄液NSE・S-100

片頭痛
・ 40%以上の症例に家族歴あり、加齢とともに頻度や症状は改善
・ 発作頻度が脳卒中と関連しているため、高頻度の場合は予防治療で頻度を減らす

群発頭痛
・ 20~40代男性、片側性、深夜に好発、鼻閉感や耳閉感など自律神経症状も
・ 急性期治療はトリプタン製剤で、予防はカルシウム拮抗薬

神経因性膀胱 弛緩型
・ 膀胱内圧測定中にコリン作動薬であるベタネコールを投与して、反応があれば(末梢が機能しているので)上位ニューロン障害、なければ下位の排尿筋障害などを疑う

ホモシスチン尿症
・ Marfan症候群が最大の鑑別診断
・ 症状は、知的障害、骨粗鬆症、Marfan体形、後湾症、水晶体亜脱臼、血栓症動脈硬化症(心筋梗塞脳梗塞の原因になり得る)
※ 血中ホモシステインが上昇する他疾患として、葉酸欠乏やビタミンB6・B12欠乏症も知っておくとbetter

フェニルケトン尿症
フェニルアラニン水酸化酵素が欠乏
・ 食事療法として、フェニルアラニンを減らす、チロシンを増やす(アミノ酸合成経路の下流部分が足りていないので補充)

Tay-Sachs病
・ ヘキソサミナーゼの活性がなくなることで、GM2ガングリオシド蓄積
・ 3~6か月までは正常に発育するが、筋力低下や発達遅滞が生じ始めて3歳までに死亡
・ Cherry-red spotを伴うが、脾腫は伴わない
※ ここで脾腫を伴ってくるのが、Niemann-Pick病
※ むしろGauche病とかの方が出題しやすい……?

むずむず脚症候群
・ リスク因子は、遺伝・家族歴、鉄欠乏症、尿毒症、妊娠、神経疾患(末梢神経疾患、脊髄疾患、多発性硬化症など)
・ 内分泌疾患は確立したリスク因子にカウントされず