つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

クロネコは凄い

衝撃的な銃撃事件から参議院選を経て、また何事もなかったかのように1週間がはじまった。参議院選をみていて、野党が驚くほど受からなくなっている現状が気になった。「政党の体力がなくなってくると、ベテランしか受からなくなって、次世代が育たずにジリ貧になっていく」なんて自分の親友が言っていたが、まさしくその通りだと思った。仮に野党に優秀な若手が現れても、日の目を見ることはないのだろう。同時に、この教訓は政治以外の場面でも成り立つだろうから、注意するようにしたい。成長するところは成長の好循環に乗りやすいし、衰退するところは衰退の悪循環を続けていくものだ。

 

さりとて、参議院選に強い関心を抱いているかというと、そうでもない。日本において政府が無力なのは、これまでもそうだったし、これからも変わらない。考え方の多様性が増せば増すほど、それぞれのニーズに見合うサービスを提供することが政府に求められていくが、そもそも政治というのはそこまで柔軟なものではないのだ。政府にとっては国民が画一的でなければ動きづらいわけで、日本を含む世界中で多様性が叫ばれている現状では、政府の無力も続いていくことだろう(AI政府が誕生しない限りは) —— だとすると、参議院選のことに関心を抱きすぎても詮なきことと思うのである。

 

それで、自分はオフの日はひたすら読書と執筆ばかりしている。要するに引き籠り晴耕雨読ライフを満喫しているわけだが、この間に『経営者』(新潮社)を読んで、ヤマト運輸株式会社の小倉昌男さんが実はすごい人だったんじゃないかと思ったので、今度は『小倉昌男 経営学』(日経BP)を読んでみた。小倉昌男さんというのは、一言でいえば「宅急便を発明した人物」だ。当時の物流業界では企業から企業への物資輸送が常識で、個人宅への物資輸送は非効率的とみなされてどの運輸会社も立ち入らなかった領域だったそうだ。そう考えると、小倉昌男さんは社会のニーズを汲み上げつつ、ブルーオーシャンで勝負して成功した凄腕の経営者ということになるのだが、どうやって「宅急便」の非効率性をクリアしたのだろうというのが本の中で述べられている。

 

革新的なのに危うさを感じない、バランスのとれた経営者という印象

 

まず、小倉昌男さんが「宅急便」を提案した時、社内から猛反対を受けたそうな。どう考えても無理だろうというわけで。しかし、小倉昌男さんは社会のニーズがあるからと、アイデアを引っ込めずに、むしろ「どうやったらこの無理難題を解決できるのか」に考えを集中させていた。これ、一歩間違えたら聞く力のない独裁者。しかし、小倉昌男さんの凄いところは、労働組合と平時から信頼関係を築いていて、その労働組合がアイデア実現に向けて味方になってくれていたところ。労働組合に支えられながらも、「宅配便」の実現可能性を何度も繰り返し模索していったのだ。例えば、非効率的な集荷を効率的にやるにはどうするか —— 町に点在する酒屋さん(今でいうコンビニに相当)を利用すれば解決できるのでは……みたいな感じで。

 

具体的に小倉昌男さんがどう個々の問題を解決していったかは、本人の書いた本を読むのが良いだろうが、その内容はいずれも社会のためのアイデアであり、現場を見ていないと捻出できないアイデアでもあった。しかし、小倉昌男さんの偉大な点はこれだけに留まらない。なんと、社会のためにならない行政上の規制を見つけたら、国が相手でも徹底的に戦いを挑んでいったのだ。例えば、昔の日本で運輸をやるには、エリアごとに免許が必要だったらしい。関東地方のドライバーは、東北地方を運転するのに別個の免許が必要だと。こういった規制に戦いを挑んだのが小倉昌男さんだったというわけだ。もちろん、こういった規制を既得権益としていた同業他社もあって、そこからの反発は相当のものだったようだが、最終的には世論を味方につけた小倉昌男さんが勝利した。国と戦うにはマスコミを利用するに限る、とか。

 

正直、物流というのは極めて難しい業界だ。『物流危機』(岩波新書)なんかを読んでいると、その困難さがよく分かる。なんといっても、競合相手にはどんなに赤字を垂れ流してもゾンビのように生き残り続けられる日本郵便という企業があるのだから……。いくら信頼のクロネコでも、ゾンビが相手では分が悪すぎる。そんな業界であっても、「宅急便といえばクロネコヤマト」という地位を確立した小倉昌男さんの経営は極めて優れたものだったと言えるだろう。ヤマト運輸株式会社、この企業には今後も長く生き残ってもらいたいものだ。そして、配達員の皆さんには感謝の気持ちを忘れずに……。

 

ちなみに、クロネコというタイトルから「パリピ孔明」をイメージした読者がもしいたとしたら、残念! いくら諸葛亮好きと言えども、その話題をブログで扱うつもりはないのだ。ただ、無名の状態からのファン形成って正攻法では絶対に無理なんだよなーとはしみじみと感じるわけで、自分のレクチャーもスポンサー企業のリソースをどう活用するか、ちゃんと頭を使いながらやっていかないといけないなーなんて感じている。