つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

異動後の初仕事は「選択と集中」の徹底かな?

「常勤医2名で入院患者25名ですね」という言葉に唖然としたのが、2022年7月15日の話……。8月1日から新しい職場に赴任予定ということで、診療体制がどうなっているのか聞いたところ、上記の返事が返ってきたのだった。筑波大学附属病院 病院総合内科では、専攻医2名 + 上級医体制でもせいぜい20名が上限だったので、現場がどんな状態になっているのか気になってしまった。

 

猛暑の中、少し数を減らすも健在な屋外のメダカたち

 

そういうわけで、夏休みを利用して偵察しに行ったのが、7月22日のこと。入院患者さんはバリエーションに富んでいるわけだが、大雑把にサマライズすると、脱水(食思不振)、肺炎、体動困難の患者さんが多くを占める感じだった(詳細は個人情報になるので控えさせていただく)。重症度としては、筑波の病院総合内科より2段階くらい軽症な印象を受けたが、それでも数が多いので処理能力が追いつかない懸念があるなと感じた。

 

赴任先のメンバーのディスカッションを傍らで聞きながら、どうすればこの現場が上手く機能するのかをじっと考えていた。これは今後自分も関与する問題である以上、忖度なしで考察しておかないといけない(従って、失礼を承知で明確にする)。まず、実際に「常勤医2名で入院患者25名」の体制が機能しているか……これについては、現状維持はクリアできているが、同時に攻めに転じる余力なしと見た。要するに、ギリギリ回っている or 見方によっては回っていないとも言える状態だ。想定外が重なると一気に崩れるパターン。ではなぜ、余力がないのか……その理由は大きく4つあると睨んだ。

 

❶ ひとつは、単純に入院症例数が多いために、ランダムな(予期しづらい)トラブルが頻発しうる点。患者さんはあくまで人間なので、いろいろな心配事や不安事を抱えて生きている —— そんな患者さんが20人も集まると、入院生活に対する不満、退院生活に対する不安といった思惑も様々になってくる。これらのランダム性を上手く扱うには、患者さんをデータではなく人間として扱える程度の余力が医者に必要だ。

 

❷ ふたつめは、入院病棟が散り過ぎていること。筑波大学附属病院 病院総合内科でも全く同じ問題が生じてしまっているのだが、入院患者さんが各病棟に散在していると、病棟間移動だけで少なからず労力がかかってしまう。従って、ベッドコントロールをちゃんとやらないといけない。同じ25名の症例数でも、単一病棟か、10もの病棟かではマネジメントの質に雲泥の差が生じてしまう。このあたりは、しっかりと部門を跨いで声を上げていかないとまずいなと思った。

 

❸ みっつめは、上記2点の問題による労力の消耗によって、「攻める医療」から「現状維持の医療」に回ってしまいがちな点(なお、「現状維持の医療」は「守る医療」では決してあり得ない点も付記しておく)。例えば、抗菌薬を投与している患者さんがいる。肺炎に対して抗菌薬を7日間投与した……「攻める医療」の場合は、ここで治療反応性を評価した上で抗菌薬を終了することができる。しかし、余力がなくなってくると、第三者の指摘があるまで延々と抗菌薬をdo処方してしまいがちである。こういう割と初歩的な問題は、どんなに診療が上手な医者でも、肉体的または精神的な余裕がない場合にはやってしまいがちである。

 

❹ よっつめは、総合診療を標榜する診療科にありがちな “拡大医療” 路線である。例えば、色々な検査をやると、関係ない検査での陽性がたまに見つかる。その結果に引っ張られて、追加検査や追加治療を行うと、その後連鎖的に色々なことが起こって……という、検査・治療カスケードの問題が生じている可能性があるように見えた。奇遇にも、自分が筑波大学に来て以来ずっと提唱してきたcompact medicine(控えめな医療)の概念は、この手の医療に対するアンチテーゼにあたる。

 

こういった問題点を踏まえると、自分が赴任して臨床面で最初にやるべきことは、以下に集約されそうだ。戦略面での改善点が少なくとも2点、戦術面での改善点が少なくとも1点ある。

 

1.ベッドコントロール [戦略] —— これが圧倒的最優先課題。ある病棟で勤務している間に、他の病棟から電話がかかってきてマルチタスクになるだけで、一気に集中力を削がれてしまう。それが9~10もの病棟に跨ってしまうと、相当複雑な並行処理を強いられることになるわけだ。この問題を解決するだけでも病棟管理の質は飛躍的に改善することは明白……であれば、ベッドコントロールの必要性を訴えていくのが長期目線では理に適っていそうだ。むしろ、ベッドコントロールこそが業務改善の要になるだろうし、それができなければ、マンパワーに乏しい診療科はやがて崩壊する。場合によっては周りと戦う必要があるかもしれないが、そのあたりはまぁ大丈夫。なにせ、自分はアウトサイダーなのだから……。

 

2.出口戦略の可視化 [戦略] —— 本来なら、入院患者数を減らすことで「攻める医療」をやる余力を作るのが理想的だ。しかし、実際には後方の療養型医療機関が上手く機能しておらず、転院調整に難渋しがちなのが、茨城における急性期医療の現実だ。そうすると、入院患者数を減らすと言っても容易ではない。だったら次点として、「入院継続を要する患者さん」と「療養型病院への転院待ちの患者さん」を何らかの形で一目瞭然の状態にしておいて、マンパワー投下のメリハリをつけやすくしておくのが良いだろう。例えば、軽症患者さんは、バイタルサインを1日1検だけにして、デバイスを全部除去して、誰がどう見ても軽症だと分かる状態にしておく。同時に、カルテに退院に向けての障壁を箇条書きにして見える化しておく必要もある。

 

3.控えめな医療 [戦術] —— たくさん検査して、たくさん診断して、たくさん治療するというのが、従来の(今も?)総合診療科の一般的なイメージだ。マッチョな診療科。これは、自分が初期研修医時代に研修していた病院の総合診療科でも似たようなポリシーを採っていたから、嫌というほどよく分かる。ただ、これは本当に正しいやり方なのだろうか? というのも、必要な検査だけして、必要な診断だけして、必要な治療だけをしていた方が、患者さんが元気になることも少なくないからだ(JAMA流に言えば、“Less is More”.)。余計なことをすると余計な問題を生じてしまうのが、高齢社会における医療の特性である。だからこそ、自分が筑波大学で編み出した「控えめな医療」を実践する価値が出てくる。これが筑波大学の外でも果たして通用するかどうか、試してみたい。なお、「控えめな医療」にはもう一段上位の概念があるのだが、これについては軌道に乗った段階で提唱できればと思っている(その時まで自分のクビが繋がっていれば……)。

 

とりあえず、自分が新天地でやろうと感じたことを3点にまとめたが、要は「選択と集中」を徹底するだけの話だ。とにかく余計なことをやらないよう細心の注意を払う。真逆の多角化で成功する組織ももちろんあるのだけれど、現時点での赴任先はまだそれをやるphaseではない。その代わり、必要なことだけは徹底的にやる。たったそれだけ。特にベッドコントロールをちゃんとできるかどうかが、この総合診療科の存続を左右するキー・ファクターではないかと自分は見た。あとは、そういう挑戦的な動きを受け入れる土壌があるかどうか。ない場合は、どう常識を変えていくか。まったくどうにもならない場合は、どこを自分の引き際(辞め時)と見定めるか(多分、ベッドコントロールの導入に成功するか否かがひとつのモノサシになる気がする)。

 

……なんとなくイメージトレーニングができてきた。あとは8月に赴任してやってみるだけだ。