通勤路は生活リズムを考えるにあたって、極めて重要な要素だ。以前の職場である筑波大学附属病院は自宅から割合近く、ママチャリを全力で漕げば10分で到着する距離だった。しかし、いまの職場である東京医大茨城医療センターはつくば市からのアクセスが非常に悪い。従って、赴任するだいぶ前から、自分自身の生活リズムが大きく崩れないものかと、だいぶ心配していた。
大学5年生の頃から、朝のうちに論文を何本か読んでから家を出るというモーニング・ルーチンを遵守しているのだが、東大時代も筑波時代も、そのルーチンを欠かした日は1日たりともない。例えば、筑波時代の朝の過ごし方は以下のような感じだった。
★ 筑波時代のモーニング・ルーチン
5:00 起床
5:10 顔を洗ってコーヒーを淹れる
5:20-6:00 日本語の総説論文を3本以上
6:00-7:00 英語の論文を3本以上
7:00-7:10 ポイ活
7:10-7:40 医学書や他分野(歴史や経営)の読書
7:40-7:50 約200 wordsの英文を1つ暗誦
7:50-8:10 メダカの餌やり、その他の身支度
8:10- 時間に余裕があれば朝食、猛スピードで出勤
8:30- 筑波大学附属病院で朝のカンファ(汗だく)
筑波時代は、家から自転車を10分漕ぐという単純な方法で出勤で来ていたので、あんまりモーニング・ルーチンに頭を悩ませる必要がなかったわけだ。ところが、東京医大茨城医療センターが勤務地になると、話がだいぶ変わってきてしまう。
もちろん、単純に通勤時間が長いのも大変なのだが、それ以上に厄介なのが中間地点である土浦駅。ここでの乗り換え待ちの時間がなかなかに手強いのだ。というのも、土浦駅での乗り換え待ちの時間が5分くらいしかないと、最初のバスが5分遅延運行しただけで、次のバスに間に合わなくなってしまう。かといって、乗り換え待ちの時間に余裕がある時間帯を選ぶと、今度は土浦駅で20分無為に待つ羽目になってしまい、これもまた馬鹿馬鹿しい。
そういうわけで、土浦駅での待ち時間を約10分で済ませられる絶妙なタイミングがないか、バスの時刻表と相当睨めっこした。その結果、つくば市を6時台前半に発車するスケジュールを組めばよいということが判明した。そうすると、モーニング・ルーチンをこのバスの運行時刻に合わせて再編しなければならぬ。その結果、以下のようになった。
★ 新しいモーニング・ルーチン(仮)
4:00 起床
4:10 顔を洗ってコーヒーを淹れる
4:20-5:20 英語の論文を3本以上
5:20-6:00 日本語の総説論文を3本以上
6:00-6:10 約200 wordsの英文を1つ暗誦
6:10-6:30 ポイ活、メダカの餌やり、その他の身支度
6:30-7:30 職場にバス×2で移動
7:30-8:30 例のひとり部屋で医学書や他分野の読書
8:30- 朝のカンファ
当然、起床時刻が1時間早くなったので、就寝時刻も1時間早めることで睡眠衛生を保つよう工夫している(そうしないと割と真面目に死んでしまう)。ところで、バスに乗っている1時間を何もせずに過ごすのは非常に勿体ない。しかし、自分は車酔いしやすいので、おいそれとはバスの中で読書できないという問題も抱えていた。従って、「バスの中では耳学問をやるしかないだろう」という結論に達した。耳学問と言えば、podcast……そういうわけで、東京医大に赴任する1週間前から、手あたり次第にpodcastを聞くようにして、何か勉強になる番組がないかを結構サーチしていたわけだな。
それでpodcastについては、Harrison's podclassとCOTEN radioをルーチンで聴くという結論に達した。Harrison's podclassは、実際の症例を用いて『ハリソン内科学』の内容を少しずつ解説するコンテンツだ。かつては比較的平易な内容が多かったのだが、直近の更新ではFelty症候群とLGL白血病の鑑別診断など、かなりハイレベルなテーマも取り上げられている。また、COTEN radioは歴史オタクのベンチャー企業経営者が歴史を好き勝手に語っている番組で、医学以外の面で勉強になる上に、聴いていて元気が出るようなコンテンツに仕上がっている。バスに揺られながら、Harrison's podclassを1回分だけ聴いて、それでも乗車時間が余ったらCOTEN radioを聴くという段取りだ(ただ、Harrison's podclassは更新頻度が少なめなので、もし今後コンテンツ切れするような場合にはJAMAの番組でも聞こうかなと思っている)。
さらに、バス中の行動選択肢を増やすため、ひたすら "車で本を読んでも酔わない方法" なるものをググっていた。そうしたら「車で本を読むと酔うのは、酔うと思い込んでいるからだ!!」みたいなことを書かれているページを見つけてしまい……胡散臭いと思いながらも「俺は酔わない……!」と心に念じながら、バスで本を読んでみることにした。そうしたら面白いことに、念じながら本を読んでいると意外と車酔いしないことに気がついてしまったのである。iPhoneの画面を見ていると酔ってしまうが、紙の本だったら案外大丈夫なようだ。
そんな感じで、大学5年生時代からのモーニング・ルーチンを死守するために、色々と試行錯誤しながら上記のスケジュールで行動するようにしている。最初の数日は生活リズムが大崩れして辛かったのだが、1週間もやっていると段々と体が慣れてきた(精神を凌駕できるのは習慣という怪物だけだ!)。加えて、職場に居心地のよい個室を賜ったことも少なからず助けになっている気がする。総じて、新しい職場でも何とか自己研鑽の質を落とさずに済みそうでホッとしている。
……え? なぜクルマを持たないかって? そりゃ、ガソリン代は高いし、クルマには購入費だけでなく税金もかかるし、それ以外にも駐車場みたいな固定費もかかるし……自分のようなスーパーケチ人間にとってはお世辞にも良い選択肢とは言えないのだよ。もっとも、クロスバイクを買うのは悪くないと思っていて、それは今度機会があれば筑波の先輩と買いに行こうかなぁなんて考えているところ。