つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

セフトリアキソンの投与量(non-CNS dose)

セフトリアキソンの投与量についてご質問いただく機会が結構あって、さらに「抗菌薬物語 I + II」(復習編)でもご質問いただいたので、この機会に文献を紹介しようと思います。具体的には、「セフトリアキソンを1 g, 12時間毎 点滴静注(2 g/日)で投与するのと、2 g, 24時間毎 点滴静注(2 g/日)で投与するのに違いはあるのか」というご質問でした。これについては、丁度よいことにメタアナリシス論文を見つけられたので、それを紹介しようと思います!

 

今回紹介する論文がこちら。

Telles JP, et al. Efficacy of Ceftriaxone 1 g daily Versus 2 g daily for The Treatment of Community-Acquired Pneumonia: A Systematic Review with Meta-Analysis. Expert Rev Anti Infect Ther 2019;17(7):501-510.

ただ、ひとつ問題だったのが、自分の所属する施設や過去に在籍していた施設のデータベースからはこの論文をPDFで入手することができなかったこと。これじゃあ疑問を解決できなくてシンドイなぁと思って、やっちゃいました! 著者へのダイレクト依頼。こんな感じの文面で著者にメールすると、結構な頻度で論文のPDFを貰えるのです(そりゃ、自分の論文を読んでもらえるの、研究者冥利に尽きますから)。

Dear Dr. XX,

 

I'm Taro Yamada, a doctor in Teikoku University, Japan.

I'm now working on(該当するテーマ), and interested in your excellent works.

 

I'd appreciate if you could send me PDF files of your article below.

"(論文のタイトル)"

https://……(論文のURL)

 

Thank you in advance.

 

Sincerely,

Taro Yamada

Teikoku University, Tokyo, Japan

yamataro1990@u-teikoku.ac.jp

 

それで、筆頭著者のテレス先生にメールを送ったら4時間後くらいに論文のPDFファイルとともにお返事をいただけてしまって、もう感激です。そんなわけで、読ませていただきました。この論文はメタアナリシスなのですが、セフトリアキソンの異なる用量どうしで治療成績を戦わせるという趣旨ではありません。むしろセフトリアキソンと他の抗菌薬とを戦わせた論文を集めてきていて、それぞれの論文毎にセフトリアキソンの投与量が異なるものだから、論文どうしを上手いこと合体させることで間接的に異なる用量のセフトリアキソンを戦わせるといった趣旨になっています。

セフトリアキソンのお相手の多くが、セフェピム、エラタペネムキノロン

 

それで、メタアナリシスの結果を一部だけ下に載せてみるのですが、セフトリアキソン 1 g/日でも、セフトリアキソン 2 g/日でも、肺炎治療においてはセフェピム、エラタペネムキノロン系と大差ないという結果になっています。肺炎治療のアウトカムとしては、臨床症状の改善とか、微生物検査での改善とか色々な指標があって、それぞれにメタアナリシスがなされているのですが、ここに掲載していない解析も含めて概ね同じような結果でした。

メタアナリシスの一部抜粋(実際の論文にはこれらの倍も図表がある……)


メタアナリシスを読む時には、出版バイアスにも注意しなければいけません。つまり、ある薬剤での治療成績が悪いと、その研究論文は出版されにくいという問題ですね。その出版バイアスを評価する方法が、ファンネルプロットになります。これによると、modified ITTに関しては出版バイアスの影響を受けていること、evaluable populationにおいては出版バイアスの影響が有意でないことが読み取れそうです。

白丸の分布をみて出版バイアスの有無を評価するらしい(自分は詳しくないけど)


まとめると、セフトリアキソン 1 g/日と2 g/日を直接戦わせた研究論文はなさそうなのですが、他の抗菌薬との比較を介して間接的に戦わせることができて、最終的にはセフトリアキソン 1 g/日と2 g/日とでは臨床成績に大差なさそうという結論になりそうです。従って、セフトリアキソン 1 g, 12時間毎 点滴静注(2 g/日)と2 g, 24時間毎 点滴静注(2 g/日)もさほど違いはないのではと思われます。惜しむらくは、副作用や安全性まで言及されていない点が少し気になりました。

 

最後に、テレス先生たちによるエキスパート・オピニオンがちょっと面白かったです。前回ブログの低アルブミン血症の話に少し絡んでくるのですが、こんなことが論文に書いてあります。

Patients diagnosed with CAP, mainly those without hypoproteinemia and normal volume distribution, are eligible candidates to ceftriaxone 1 g per day during 5–7 days.

つまり、低アルブミン血症の患者さんではセフトリアキソンの効果が減弱しそうだから、2 g/日で投与した方がいいかもと(明言はしていないものの)匂わせているんですよね。なるほど、なるほど。うーん、自分だったら紛らわしいのが嫌だから、常にセフトリアキソン 2 g, 24時間毎 点滴静注(2 g/日)でやってしまう派かなぁ。高齢社会ニッポンなんだから、どうせみんな低アルブミン血症だし。。