つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

生ワクチンの奇妙な副効果

【注意】本記事は副効果を期待しての生ワクチン接種を推奨するものではありませんので、その点はご注意ください!

 

Lancet Infectious Diseasesを普段から読んでいるのですが、なかなか興味深い記事を見かけたので紹介したいと思います。COVID-19流行の割と初期の頃(2020年初頭)に「BCGがCOVID-19を予防する」という噂が流れて、それを信じた人が小児科クリニックにBCGを打ちに行くという事案があったと思うのですが、それ関連のまとめがPersonal Viewの形でまとめられていました(doi: 10.1016/S1473-3099(22)00498-4)。なお、この論文が世に出てからまだ2日なので、まだPubMedにも収載されていません。

 

「BCGがCOVID-19を予防する」なんて聞くと、理屈で考えると「いや、流石にないでしょ」ってなるとは思うのですが、やはり実際のところどうなっているのかは気になりますし、そもそもそういった噂が流れるにしても理論上の背景が何かしらあるのではないかというふうにも勘ぐってしまうわけです(まぁ、BCG接種国でのCOVID-19の患者数や死亡者数が比較的少なかったという連想だけだったのかもしれませんが)。

 

実は以前から生ワクチンには、標的となる病原体による感染症を予防する効果の他に、「謎の死亡率減少効果」がたびたび観察されてきていることがこの論文には記載されています(知らなかった!)。機序は不明ながらも、生ワクチンによって何らかの免疫が惹起されることが背景にあるのかもしれないと語られています。そういった効果の観察された生ワクチンとしては、BCG、麻疹ワクチン、経口ポリオワクチンが挙げられるようで、繰り返し接種することでそういった「謎の死亡率減少効果」が見られたとする報告があるらしいのです。もっとも、それぞれの研究論文を読んでみてもこの死亡率減少効果の理由まではしっかりと追究されていませんでした……。つまり「謎」のままです。

 

doi: 10.1016/S1473-3099(22)00498-4

 

doi: 10.1016/S1473-3099(22)00498-4

 

「BCGがCOVID-19を予防する」というのが本当かという話題もこの記事の中でまとめられていますが、それは否定的という結論です。噂が流れるとちゃんと検証されるのがアカデミズムの面白いところで、ランダム化比較試験までしっかりとなされているのが凄いですよね! さて正直なところ、生ワクチンによる「謎の死亡率減少効果」を知ったところで臨床に生かしようがないよなぁと思うわけですが、基礎医学的な視座からはなかなか興味深い話題なのではないでしょうか。

 

doi: 10.1016/S1473-3099(22)00498-4