つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

回診1回、握り飯1つ

現在の職場における最大の問題点は、いうまでもなくベッドコントロールの不在である。総合診療科の患者数は今や40名に迫っている状況なのだが、その患者さんがあらゆる病棟に散在してしまっている状況だ。大英帝国は七つの海を支配したが、大総合診療帝国もまた、七つの病棟を制覇しそうな(というか、既にしている)勢いで正直なところ驚愕してしまっているのである。もちろん、ベッドコントロール不在の影響は他の診療科にも少なからず及んでいるものと見え、患者リストを見ているとあらゆる診療科が抱えている問題であることを再認識させられるわけだ。

 

ベッドコントロール不在が明らかに問題になっているはずなのに、なかなか言い出す人がいない。みんな薄々感じていても、「伝統」とか「歴史」とかがあるものに対しては、なかなか言い出すことができないというのもまた、人の世というものなのかなと思い巡らす。恐らくは誰かが声を上げれば動くのかもしれないが、言い出す人間は偉い人でないと難しいのだろうなとも感じるわけだ。

 

ただ、吾輩は理不尽に対して泣き寝入りしないことにだけは定評がある。「理不尽を受け入れて与えられた環境で素直に働く」なんて決してあってはならないことなのだ。怒れ! 怒れ! 怒れ! 「この病院にベッドコントロールを導入する」と心に決めている以上は、どうにかして成功させねばならぬのだ! 現在は入退院患者数のデータを集めていて、予定入院と緊急入院のデータと睨めっこしながら、どうすれば誰にも負担のかからない体制を築き上げられるかを机上で試行錯誤しているところだ(実現可能そうなものとして、2つばかりアイデアを温めている)。同時に、院内で新たに発足する予定の「働き方改革委員会」に入ることにした。ベッドコントロール問題の解消は働き方改革に直結する可能性が高く、相乗効果が期待できるかもしれないと見込んでのことだ(まぁ、この委員会は時間外に開催されるらしいので、その時点で色々と矛盾しているわけなのだが……汗)。

 

さりとて、ベッドコントロールの問題は一朝一夕に解消するものではない。ましてや、昨今のCOVID-19の流行状況。吾輩の職場の病床稼働率は90%を上回っている状態(この1週間は完全満床)が恒常的に続いているため、ベッドコントロールのアイデアを試行錯誤するに時期尚早な印象も拭えないわけだ。いまはまだ根回しの時期であり、大総合診療帝国の患者40名をひとつの海にまとめるのも当面は実現しそうにない。

 

そうすると、日々の苦労は回診だ。なんと毎日、七つの海を航海しなければならぬ。大航海時代と聞くとワクワクするかもしれないが、そんなビッグ・イベントも毎日繰り返されると流石にうんざりしてくるわけだ。かのコロンブスもきっと嫌がることであろう。当然のように研修医の先生方にも不評のこのビッグ・デイリー・イベント、どうにかして愉快なものにできないだろうか。そんなことばかり考えていた。

 

ある日(まぁ、2022年9月1日だが)、外来の合間にTwitterを眺めていたら、大変興味深いtweetがタイムラインに流れてきて目が釘付けになってしまった。

@kodaiGrow

今の時代、生活してれば誰でも稼げます。

①歩く→SweatCoin
②検索→Brave
③寝る→Sleep Future
④食事→Poppin
⑤音楽→PENTA
⑥飲む→Classcoin
⑦勉強→Let me Speak

(以下、略)

「歩けば稼げる」というキーワードを見た瞬間に、頭上の電球が光る。「これってもしかしたら、回診でお金を稼げるのではないか?」……なんとも吾輩らしいお下品な発想である。しかし、回診は必須業務であり、どんな手段を使ってでもモチベーションを上げにいく必要がある。そんなわけで、仮想通過をやっている知り合いにヒアリングしながら、ここで挙げられているSweatCoinを勉強してみることにしたのであった(これまで仮想通過を触ったことがなかった)。

 

スマホ歩数計の正確さのメカニズムも、調べてみると面白い

 

そもそも、「歩けば稼げる」(Walk2Earn)という考え方は以前からあったようだ。うろ覚えではあるが、ちょっと前にSTEPNという仮想通過があって、歩くことで仮想通過を稼ぐことができるという話があったように記憶している。まぁ、そのSTEPNは大暴落を起こしてしまったので、吾輩の中では「危ない何か」という認識なのだが……。そんなSTEPNとは違ってSweatCoinは自腹を切る必要が全くないようで、ひたすら歩いていれば仮想通過を稼ぐことができるらしい。ゆえにSTEPNよりも安全と判断した吾輩は、とりあえずSweatCoinのアプリを使ってみることにした。もっとも、”Walk2Earn” がどういうビジネスモデルなのかは吾輩の古びた脳味噌ではトンと見当もつかぬところで、誰かにご教授をお願いしたく存じる。

 

それで、早速SwearCoinを使って病棟回診をやってみると、これがなかなか面白い。病棟回診一巡で最低2,000歩くらいは歩くことになるので、その収益は 2 SCsだ。まだ 1 SCあたりの価値は不明確なのだが(再来週あたりレートが判明する模様)、予想としては30~100円くらいになるそうな。つまり、回診をすると握り飯代くらいは稼げる計算になる。当代一流のケチで名の通る吾輩にとっては、この僅かばかりのお金がマコトに有難い。加えて、吾輩はとにかくよく歩く。仕事が終わればジョギングもする。従って、1日あたりの歩数は平均12,000歩くらいになる。つまり、12 SCs ≒ 300~1,200円でそこそこの収入。それこそ、「あれ? 回診って実はサイコーなんじゃないか?」と一瞬錯覚してしまうのライフ・ハックであろう。

 

でもな……レジ部屋に出没して研修医の先生たちにそのことを得意げに話したら、みんなSweatCoinの存在を知っていたようで「なんだ、そんなことか」みたいなリアクションを賜ってしまったのだ。なんてこったい! 吾輩の卓越したナイス・アイデアを披露して驚かせようと思っていたのに、アテが完全に外れた形じゃないか! 結局のところ、「病棟回診でお金を稼ぐ」というアイデアも、みんな気付いているけど言い出されることのない発想なのかもしれない。