つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

スタチンによる横紋筋融解症

Lancetを読んでいたら、プライマリケア領域に少なからず関わってきそうなメタアナリシス論文を見かけました。スタチン使用に伴う横紋筋融解症(筋肉痛や筋力低下など、定義はかなり広そう)の発生率に関するメタアナリシスで、ここに含まれている研究の条件としては、参加者数が1,000名以上で、スタチン同士またはスタチン対プラセボの二重盲検比較試験というのが規定されています。

 

Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration. Lancet 2022:S0140-6736(22)01545-8.

 

結果としては、プラセボ群と比べてスタチン使用群は1年後の横紋筋融解症のincidence rate ratioが1.07になっており、15名中1名が「スタチンによる」横紋筋融解症を起こすという話になりそうです。ただ、面白いのは2年後以降に関してはincidence rate ratioが低下していて、スタチン群とプラセボ群とで差がなくなっているように見えます。つまり、スタチンを使い始めてから最初の1年間が問題なければ、それ以降も安全に継続使用できる可能性が高いということになりそうです。まぁ、とはいっても、15名に1名とは……臨床実感よりも随分と多い気がいたします(自分の体感的には30名に1名くらい。スタチンの用量が控えめだから……?)。あと、意外とプラセボ効果が大きいんですよね —— CKの動いていない "横紋筋融解症" も結構含まれてしまっているのかしら。

 

この研究では、スタチン同士の比較も載せているのですが、やはりスタチン強化療法群では他スタチン群よりも横紋筋融解症のincidence rate ratioが上昇するみたいです。もっとも、この研究におけるスタチン強化療法群というのがアトルバスタチン 40-80 mg/dayとかロスバスタチン 20-40 mg/dayみたいに、物凄い高用量なんですけどね……。自分がアトルバスタチンを処方する時は5-10 mg/dayですし、ロスバスタチンにしても2.5-5 mg/dayですから。海外では随分と高用量でやっているのだなぁと改めて実感した次第です。なお、無理矢理に感染症領域と関連づけるならダプトマイシンでしょうか、ダプトマイシンは横紋筋融解症との関連が知られているのでCKをフォローしながら使うのが良いかと思います。