つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

The Lab:研究倫理講習会に見るリーダーの激務

自分は大学病院ばかりを梯子しているようなキャリアになっていて、意味の分からない経歴になってしまっているわけだが、こうやって色々な大学病院を転々とするのもなかなか面白いなと思い始めている。というのも、例えば研究倫理講習会ひとつをとっても、大学ごとに方式が異なっている。大抵の大学病院では独自の研究倫理講習会の教材を作成しているわけだが、東京医科大学の場合は国立研究開発法人科学技術振興機構JST)の開発した教材である "The Lab" という教材を用いている。なるほど、そういったアウトソーシングもありなんだな……と思いつつも、この教材を開いてみると、これがなかなかに上手く作られていてなかなか面白いのだ。

 

研究不正を題材にした選択肢・分岐付きドラマ

 

研究不正が起こったラボを題材として、時を遡ってハッピーエンドへと未来を変えていくような主旨なのだが、登場人物を4人の人物(研究室主宰者、ポスドク、大学院生、大学の研究公正責任者)のうちから選ぶことができる。それぞれの人物ごとにシナリオが用意されているのだが、途中で選択肢がいくつか用意されていて、どの選択肢を選ぶかによっても結末が分岐するという仕様だ。そういえば、『2030年』に「視聴者の表情などによってシナリオが変わる映画が実現していく」みたいな話が載っていて、ちょっとそれに近い感じかなぁとも思った。いずれにしても作り込みが細かくて、それなりに予算が投入されている印象だった。

 

自分は大学院生のシナリオで(途中でラボの同僚から村八分にされつつも)ハッピーエンドに達したわけだが、なかなか面白い教材だなぁと思ったので妻にもやってもらった。妻は研究室主宰者のシナリオをなぜか選んでいて、それでうまいことハッピーエンドに到達していたのだけれど、途中の選択肢がなかなかえぐかった。というのも、疲労困憊している時に「相談に来たポスドクの話を聞きに行く」とか、大事な手技をしている最中に「相談しに来た大学院生と面談する」とか、仮想の世界ならともかく、現実の世界だとそうはいかないよなぁと思う場面が多かったわけだ。リーダーの仕事って過酷だなぁ、と。そういえば、米国では日本と真逆で、立場が上がれば上がるほど忙しくなるものだと聞いたことがある。

 

リーダーといえば、いまの自分の直属の上司である教授も非常に多忙な御方だ。いまの自分には全く想像もつかないほど多くの仕事を(涼しい顔をしながら)されておられる。日中はお互いに忙しくてコミュニケーションをとる時間もあまりないのだが、帰りのバスは一緒になることが多いので、職場から土浦駅までの20~30分ばかりは普段の仕事で感じているあれやこれや(悩みとか、閃いたアイデアとか)を共有するようにしている。教授はいつも強気で完璧超人にしか見えない御方ではあるのだが、それでも多忙ゆえに実現できていない理想というものがたくさんあるわけで、そのあたりをオープンに打ち明けてもらえているのは有難いことだと思っている。

 

そんな中で、自分にできることは一体何だろうか。もちろん、臨床業務の分担も大切。だけど一番重要と思われるのは、お互いの得意領域で仕事をカバーし合うことだと思うのだ。例えば、自分の場合は教育と外交が最も得意で、その次に得意なのが臨床研究といったところだろうから、これらの領域では積極的に仕事を買って出るつもりである。まぁ、そう思えるくらいには今の職場に慣れてきたとも言えるわけで。己の持ち場で、己のベストを尽くさねばな……。