つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

新たなる椅子

News Picksパブリッシングから出版されている書籍には面白いものが多い。どうにもならず絶望するしかない現代社会において、いかにして生き延びるか。理想論に奔ることなく、地に足のついた知恵を授けてくれる書籍が多いのだ。なるほど、これから引退するシニアの人々にとっては必ずしも面白い内容ではないのかもしれないが、いまを生きる若者は必死だ。余裕のある若者などそうそういない。そんな若者たちの心を引き付ける出版社からの言葉はなかなか心に沁みるものがある。

 

希望を灯そう。

「失われた30年」に、失われたのは希望でした。今の暮らしは、悪くない。ただもう、未来に期待はできない。そんなうっすらした無力感が、私たちを覆っています。なぜか。前の時代に生まれたシステムや価値観を、今も捨てられずに握りしめているからです。こんな時代に立ち上がる出版社として、私たちがすべきこと。それは「既存のシステムの中で勝ち抜くノウハウ」を発信することではありません。錆びついたシステムは手放して、新たなシステムを試行する。限られた椅子を奪い合うのではなく、新たな椅子を作り出す。そんな姿勢で現実に立ち向かう人たちの言葉を私たちは「希望」と呼び、その発信源となることをここに宣言します。もっともらしい分析も、他人事のような評論も、もう聞き飽きました。この困難な時代に、したたかに希望を実現していくことこそ、最高の娯楽(エンタメ)です。私たちはそう考える著者や読者のハブとなり、時代にうねりを生み出していきます。希望の灯を掲げましょう。1冊の本がその種火となったなら、これほど嬉しいことはありません。

— 令和元年 News Picksパブリッシング編集長 井上慎平

 

『ブループリント』はそんなに面白くなかった……(笑)

 

現代を生きるにあたっての選択肢は三つ。旧態依然とした日本社会にある種の戦いを挑むか、絶望して泣き寝入りするか、すべてを捨てて日本社会から逃避するか(注)。このうち、絶望して泣き寝入りするのは性に合わないし、なんだか悔しい。最近はニュースで政治家を見るたびに腸が煮えくり返るものだから、テレビなど見たくはなくなった。だから、多少なりとも人生を真面目に生きようというのであれば、選択肢は戦うか、逃げるかの二択に落ち着くのだろう。人生前半を戦ってみて、勝てないと分かればサッサと隠者にでもなって、勝てる可能性があれば戦い続けるというのが現実的なライフプランのように凡人としては思えてくる(まぁ、本音としては隠居生活とか高等遊民に憧れているのだが、周りが許してくれないのだ)。そして、既存のルールの中で戦っても勝ち目がない点は常に念頭に置いておきたい。戦うのは、あくまで新しいルールを作ってそれを根付かせる営みのことを指すものと心得ておきたい。

(注)成田悠輔さんはベストセラーの中で「闘争か、逃走か、創造か」と書いていたが、実際には「不承不承」(泣き寝入り)というもうひとつの選択肢がある。そして、現代日本人の多くがこの第四の選択肢を自ら選び取っている。読者の皆がきっと「創造」に賛成するのだろうが、実際に採る行動がそれと程遠いのは皮肉だ。

 

自分にとっての「新たな椅子」とはいったい何だろう。思い当たる「椅子」がひとつある。この「椅子」を掌中に収めて確固たる地盤にするのが、この数年で自分がやるべきことと考えている。地盤がなければやりようがない —— なるべく若いうちに地盤を作って、可能な限りの時間をかけてじっくり少しずつ成長していければ、最終的な到達点も高いところになるのではと思っているのだ。それでいまの自分がどう振る舞えば、この「椅子」を勝ち取ることができるのか。色々な判断材料を総合すると、2年あれば勝機があるのではと見立てた —— 元々は5年くらいかかる見込みだったが、ショートカットする方法があるのならやらない手はない。自分を慕ってついてきてくれる後輩たちもおり、彼らを待たせ続けるわけにもいかないだろう。それと同時に、2年間は短い —— この期間でやれることはすべてやり尽くさねばなるまい。忙しいぞ。

 

天地人」という言葉がある。もともとは『孟子』の「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」という言葉で、拡大解釈されて「天の時、地の利、人の和を揃えれば天下をとれる」というニュアンスで誤用されるのを目にする。自分史でいけば、「地の利」と「人の和」については何の心配もしていない(その一方で、特に後者は意識的にメンテナンスし続けることが大事)。むしろ「天の時」を2年後に合わせられるかが最大の問題で、このあたりを上手いこと調整するのが自分の今年の戦略なのかなと思っている。この戦略から逆算すれば、今年の目標も自ずから明らかになるわけである。もちろん大きな誤算が生じる際には「プランB」または「プラン隠者」に切り替えるのも考えている。忙しいのは嫌いなんだが、やっぱり今年は忙しくなりそうだな。