つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

Strategic positioningとorganizational capability

最近はいろいろな場所に顔を出しては、「戦略家ごっこ」をやっている。自分は経営学をちゃんと学んだことがなく、あくまで図書館で本を乱読して身に着けたものであるから、「戦略家」というには程遠く、せいぜい「ごっこ」程度のお遊びなのだ。いろいろな場所というのは、病院のことであり、診療科のことであり、大手企業のことであり、ベンチャー企業のことである。ここに加えて、自分自身の戦略も「ごっこ」なりに考えている。図書館で得た経営学の素人知識を、実戦で試す機会を多くいただいていて、そこそこ楽しくやらせていただいているわけだ。

 

図書館で読んだ経営学の本で印象に残っているのが『両利きの経営』である。正直あまり出来の良い本だとは思わなかったが、間違ったことは恐らく言っていないし、何より「両利きの経営」という言葉が当時とても流行っていたので、かなり強く頭に刻み込まれているのだ。しかし、最近経営の現場に「ごっこ」なりにも身を置くようになってから、「両利きの経営」の弱点を痛感する場面が多い。

 

そもそも「両利きの経営」とは何かというと、その組織の得意分野を右手で盤石にしながらも、それを基礎に左手で新分野を切り拓いていく経営のあり方を指している。強みを深めながら、広く浅く新しいことにも手を出していく。いかにも攻防一体のやり方で、明らかな欠点の見えない無難な戦略だ。そして、この普遍的な戦略は、大企業にもベンチャー企業にも適用可能である。一般に、大企業であれば右手の要素が強くなるのだろうし、ベンチャー企業であれば左手の要素が強くなる傾向にあることが予想されるが、両手を使うことの重要性を認識しているという点ではどちらも大差ないだろう。それで、現場にいると割とどの組織でも「両利きの経営」を意識した経営をしているように見受けられる。ただ、そういった組織を眺めていると、新分野を開拓する戦略のロジックが欠如しているのではと思ってしまうことが少なくない。先ほどの表現でいうと、右手は使えているけど、左手の使い方がちょっとお粗末過ぎるのではないか?という話である。

 

何をいいたいかというと、新分野開拓の折にあまりにも幅広いテーマに左手を伸ばし過ぎている。幅広いテーマに左手を出してみて、その中で1つか2つくらいヒットするテーマが見つかったら、そこに一気に資本を投下するという戦術を想定しているのだろう。しかし、この方法だと所詮は運任せである。頭脳を使った作戦というよりはマッチョなお祈りだ。さらに、幸運にも左手でヒットを生み出せたとして、それが右手と上手くシナジーしてひとつのストーリーになっていなければ、"長期的な" 繁栄に結びつけることはできないだろう。なぜか。ブルーオーシャンとして開拓した新しいテーマには、あっという間に競合相手が参入してレッドオーシャン化してしまうからだ。

 

Amazon多角化しているが、コンセプトは今も昔も一緒だとか

 

新分野の開拓(左手)は、あくまで競合相手に絶対に模倣できないような形で行う必要がある。どうすればそれが実現可能かといえば、やはり既存の強み(右手)とのシナジーであろう。ベクトルで表現するならば、誰もいない方向に矢印を定めつつも(左手 = 新分野開拓)、矢印そのものを誰も追いつけないほど圧倒的な長さに伸ばす必要がある(右手との協調 = 確固たる強みによる競合相手の参入阻止)。経営学の言葉を使うならば、左手のstrategic positioningと右手のorganizational capabilityをきっちりと区別して、その両者(競争戦略)をひとつの大作戦のコンテクスト(全社戦略)の盤上で連動させなさいと言いたいだけ —— 何をしたいのかというグランドデザインが抜け落ちてしまうと、どんなに良い個別の戦略も総体として無意味になってしまうのだ。