つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

二十万といえども

最近、良い話があった。大学病院の勤務医は安い給与を補填するために、往々にして他の病院に外勤、つまりはアルバイトに行っていることが多いのだが、その関連で高額の日勤案件を紹介していただいたのだった。やはり肩書きが「専攻医」なのか「臨床助教」なのかでは雇用面での待遇が大きく異なっている気がしてならない。その対価として、やれることが増えて、やるべきことも増えて、そして責任も大きくなったことを実感するわけだが、与えられた待遇に対して当然の責務という感覚も同時にあるのだ。

 

日本文化の難しめの本に手が伸びることも

 

まぁ、とにもかくにも、良い外勤案件をご紹介いただいた。ありがたいことだ。ところで、自分には既に外勤先がある。待遇については、新しく紹介していただいたところのものほどではないにしても、なかなかよいと自分では思っている。いまでも身の丈に合っているか、あるいはそれを少し上回るくらいの待遇。交通の便に関しては、いまの外勤先と新しくご紹介いただいた外勤先とで良い勝負。そういうわけで、新しい外勤案件のメリットは、いまの外勤先よりも給与待遇が大幅によくなるという一点になりそうだ。

 

それでこの新しい外勤案件、お話をいただいたその場でお断りさせていただいたのであった。確かに新しい外勤案件は給与面でだいぶ恵まれていると思ったのだが、あまりにも恵まれすぎていて自分の身の丈に合っていないような気がした。はっきり言って、自分の能力にまだそこまでの市場価値はない。それにいまの外勤先からだって、相場よりも良い給与をいただいている。常勤でないにも関わらず、常勤医の先生方から同じ病院の仲間として受け入れていただいてもいる。その厚意を裏切るわけにもいくまい。いまの外勤先にはこのように大きな御恩があるわけで、その義理をこれからも果たし続けていきたいと思っている。ゆえに、お断りさせていただいた次第である。

 

この一件で少しだけ自分に自信がついた。日本の戦国時代の逸話で、豊臣秀吉が色々な他家の武将をスカウトした話があるのだが(例えば直江兼続とか石川数正とか……)、中にはスパッと断った武将も散見されたようだ。そういった昔の逸話に思いを巡らせながらも、自分のようなお金にがめつい人間が脊髄反射的に「お金より義理」という決断ができたのは良かったと思うし、何よりホッとした。医療現場に揉まれながらも、辛うじて心を失っていないことを確かめることができたのだから。逆に今後似たような状況が生じたとして、そこで少しでも心が動いてしまうようなら、人間としての自分はもう終わりなのかなとも感じるのである(身の丈に合った昇給で義理を欠かずに済む状況であれば、喜んで受けるのだけれど)。