つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

2022-01-01から1年間の記事一覧

誰とは言わぬ、プリンシプルのある人々

アカデミズムに身を置く立場ゆえに、様々な人々のレクチャーを聴く機会がある。各業界の新進気鋭の若手によるレクチャーには、新しい知見が数多く散りばめられており、これはこれでなかなか楽しいものだ。「明日の診療に生かせるトリビア」を学ぶと、ちょっ…

クリック・ケミストリー

New England Journal of Medicine (NEJM) は言うまでもなく臨床医学雑誌である。しかし、時々 Clinical Implications of Basic Research と称して、臨床応用を期待される基礎医学分野の知見が簡潔に紹介されていることがある。正直なところ、いくら分かりや…

Treatable,されど untreatable

地方病院での総合診療科で勤務していると、入院する患者さんの半分が誤嚥性肺炎である。誤嚥性肺炎が半分、尿路感染症が1/4くらい、その他が1/4くらい。もっとも、誤嚥性肺炎も尿路感染症もいずれも除外診断だから、後から違う病気が判明することも少なくは…

リスクモデルと個々の患者

学生時代、東大病院の細菌検査室によく通っては恩師のT医師から色々な臨床にまつわる教えを受けていたが、その中で特に印象に残っている教えとして「スコアリング・ツールを使えば、目の前の患者が病気を抱えているかの目安にはなるかもしれないが、実際に識…

吾輩のサムネイル革命

YouTuberをはじめてから約4か月になる。マニアックな内容ばかりを扱っているせいでなかなか視聴数は伸びないものの、チャンネル登録者数は240名くらい。扱っている内容の専門性の高さを考えれば、そこそこ善戦している方かもしれない。ちょうど時期を同じく…

手水場の紅葉を眺めて臥せる床

茨城県内で勤務するようになってからは比較的健康に過ごしているのだが、久しぶりに我が家の手水場に紅葉を散らすことになってしまい、多忙による五臓六腑の負担を実感することになった。少しばかり休養する必要があると思い、最近は仕事がない時は努めて臥…

意志と表象としての世界について

読書の中でも、哲学書は敬遠されがちである。言葉遣いが難しいし、分厚いし、読んでいると堂々巡りしているような気持ちになる。なかなか実用的な教訓を得られないということで、結局手が伸びてしまうのはハウツー本のように即効性のある書籍だったり、小説…

二十万といえども

最近、良い話があった。大学病院の勤務医は安い給与を補填するために、往々にして他の病院に外勤、つまりはアルバイトに行っていることが多いのだが、その関連で高額の日勤案件を紹介していただいたのだった。やはり肩書きが「専攻医」なのか「臨床助教」な…

医療の葛藤

医者になってからというもの、日々の仕事が鬱との戦いである。毎朝起きては、自分自身に「今日はやれるか? —— あぁ……今日はまだ大丈夫だ」と自問自答しながら敷布団を折り畳むところから1日がスタートする。幸いにして、初期研修中のごく半年と後期研修中の…

「いき」という、和のエッセンス

原色が三つであることを証明するのは難しい。色の専門家であればなにかしらの知見があるのかもしれないが、少なくとも非専門家からしてみたらまったく想像もつかない。このように数多くのバリエーションの中から数少ない本質を拾い上げるのは極めて困難な作…

大きな志。そして小さな日常。—— 司馬遼太郎

文豪の書いた本を読もうと思い立ったとき、何から読み始めたらよいものか迷ってしまうことがよくあるだろう。自分も大学生時代に三島由紀夫の小説をよく読んでいたのだが、読もうと思い立ったときに何から読めばよいものか、最初は途方に暮れたものだ。 身近…

心の奥底に一杯の茶

「怠慢」といえば、自分ほどこの言葉が相応しい人間は他にいないだろうと常々思う。生まれてからずっと怠慢な生き方を続けてきていただけに、このことには自覚的であり、新しい職場に赴任する際には「自分は怠慢である」と繰り返しアピールすることを忘れな…

なぜ後進との学会準備が捗らないのか

医者の三大業務といえば、臨床・研究・教育である。このうち、自身の適性を教育 ≥ 研究 > 臨床と認識しているわけだが、比較的得意な教育においても悩みを抱えることがある。教育のどこが難しいかというと、もともとの士気が高い後進を育てて世界へと飛躍さ…

新鮮なる古習慣

東京医科大学茨城医療センターに赴任してからの大きな変化をひとつ挙げるとしたら、1週間が異様に短く感じられるようになったことだろうか。どうしても創業期の診療科だから、マンパワー不足による予測不可能な事態も度々生じるわけで、日々ピンチに直面して…

久しぶりの対面LIVE!

バイキン屋さんは(バイキン屋さんを名乗るだいぶ以前から)オンラインでのレクチャーをたくさんしてきたのだが、やっぱり一番好きなのは対面式のレクチャーである。というのも、「抗菌薬物語」の原型だったレクチャーは(しつこいかもしれないけど)東大病…

くわがた

騒騒しい夏が終わった。それでも朝が忙しいのは秋も変わらずだ。普段通りに論文を読んで、遅刻ギリギリで玄関を蹴破るように家を出ると、目の前に虫が腹を見せてジタバタしている。ゴキブリか、それとも季節外れのカナブンか。なんとなくカナブンっぽいと思…

The Lab:研究倫理講習会に見るリーダーの激務

自分は大学病院ばかりを梯子しているようなキャリアになっていて、意味の分からない経歴になってしまっているわけだが、こうやって色々な大学病院を転々とするのもなかなか面白いなと思い始めている。というのも、例えば研究倫理講習会ひとつをとっても、大…

YouTuberとしての技量を上げねば!

「バイキン屋。」としてYouTuber活動をはじめて3週間。毎週土曜日 or 日曜日に「抗菌薬物語シリーズ」を投稿し、その合間に定期的に「質問箱」を投稿するようになったわけだが、段々とAviUtlでの動画編集作業にも慣れてきたし、少しずつ集めてきた効果音のス…

まったく、今どきの若者は……

筑波大学から東京医科大学に異動する頃から、筑波大学などの意欲ある学生さんを集めて、論文の読み方やLetter to the Editorの執筆方法を定期的に教えることにしている。学生さんに気に入った研究論文を適当に持ってきてもらって、その論文の問題点や周辺事…

生命科学から人生を捉える

つくば市立中央図書館の「返却本コーナー」を結構気に入っている。予約待ちの本がそこに並ぶことは絶対にありえないのだが、人気の高い本が並んでいることが多いからだ。図書館に行くとつい、自分の読みたいジャンルの本棚のところに向かってしまうことが多…

たとえ「良医」になれずとも

聖路加のベテランの先生の書かれた、患者さんとの心温まる交流の物語集『内科医の私と患者さんの物語』(医学書院)を読んだ。がん末期の患者さんが家族の結婚式に参加したいということで、聖路加国際病院の中で模擬結婚式を挙げた話などを読んでいると、自…

抗MRSA薬のお値段

先日のDr.'s Prime Academiaで、抗MRSA薬のお値段のお話をさせていただいたのですが、バンコマイシンやダプトマイシンのお値段を失念しておりましたので簡単に補足させていただきます。腎機能が正常の患者さん(体重 60 kg)の場合の各薬剤の投与方法は、以…

茨城のレンコン農家

茨城県は日本有数の米どころであり、その生産量(重さ)は平成30年の農林水産省のデータによると都道府県全体で8位にあたるようだ。いつも食べている茨城県産コシヒカリ、これはなかなか美味いもので、自分も色々な場所に旅したり下宿したりしているものの、…

"きれいな" 臨床のコミュニケーション

最近、YouTuberとしての活動もはじめてみたのだが、実に不思議な気分である。というのも、チャンネル登録者数は案の定、2桁を少し越えたところで止まっているし、アップロードした動画の再生回数も3桁に届かない。しかし、色々なYouTuberの書籍を読んでいる…

スタチンによる横紋筋融解症

Lancetを読んでいたら、プライマリケア領域に少なからず関わってきそうなメタアナリシス論文を見かけました。スタチン使用に伴う横紋筋融解症(筋肉痛や筋力低下など、定義はかなり広そう)の発生率に関するメタアナリシスで、ここに含まれている研究の条件…

回診1回、握り飯1つ

現在の職場における最大の問題点は、いうまでもなくベッドコントロールの不在である。総合診療科の患者数は今や40名に迫っている状況なのだが、その患者さんがあらゆる病棟に散在してしまっている状況だ。大英帝国は七つの海を支配したが、大総合診療帝国も…

Taylor先生の思索:善き医療とは如何なるものであろうか

医者に限らず、医療従事者には様々な性格がある。医療従事者にとって「医療とは何か?」と聞かれたら、とりあえずは「仕事」ということになるのだろうが、医療従事者と医療との距離感も人それぞれではないだろうか。例えば、「医療とは自分の人生そのもので…

生ワクチンの奇妙な副効果

【注意】本記事は副効果を期待しての生ワクチン接種を推奨するものではありませんので、その点はご注意ください! Lancet Infectious Diseasesを普段から読んでいるのですが、なかなか興味深い記事を見かけたので紹介したいと思います。COVID-19流行の割と初…

キノロン系の中で自分が使ったことのないやつ

はじめに 参加者の皆様に大感謝! 2022年8月26日に「抗菌薬物語 III」(復習編)をDr.'s Prime Academiaで行いましたが、120名もの方にご参加いただき、とてもありがたいことだなと思いました。初回の「抗菌薬物語 III」の参加者数が750名で、その後の「抗菌…

昭和時代の二人の賢人

図書館にほぼ毎日通っては本を借りて、故人を含むいろいろな人の考え方を学んでいるのだが、個人的に読んでいて爽やかな気持ちになれる著者を挙げるなら、小倉昌男さんと中野孝次さんだと思う。小倉昌男さんは、ヤマト運輸で「宅配便」を生み出した伝説的経…