つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

論文をたくさん書くには談義

我輩はとある学会の委員会の末席に連ならせていただいているのだが、そこで先日 忘年会なのかそうでないのかよく分からない会合があった。飲酒してもよいと事前に明言されつつも、ノンアルコールビールを用意された先生方もいて、結局 酔っていいのかダメなのかが最後までよく分からぬ。しかしながら、我輩はアルコールが入ると不眠になってしまう。カントの真似で長年かけて築き上げたスケジュール生活にヒビが入るのは嫌なので、決してアルコールは飲まないのだ。その禁を犯して半年ほど前に職場の上司の勧めでアルコールを1杯飲んでみたのだが、やはり数日間不調になってしまったので、飲むとしたらノンアルコールビールに限る。もっとも、養命酒は例外で、体調を崩さないものだから好んで飲んではいるが。

 

理由なくロウソク立てて着火して不思議な匂いに冬を感じる

 

アルコールの話はどうでもよい。大切なのは、その会合で何が話し合われたかだ。論文の生産性を高めるにはどうしたらよいのかという話題。正直なところ、その会合に出ているメンバーが数多くの論文を書いている錚々たる先輩方だったので、そんな悩みが議題に挙がること自体が意外に思えたが、どうも「昨年よりも今年の方が、今年よりも来年の方が多くの論文を出していないといけない」というメンタリティーのようす。だとすれば、論文の生産性を高めたいという悩みも納得できるのである。ちなみに我輩は論文執筆を臨床業務の御褒美や道楽の類だと思っているせいで、生産性を高めたいと思ったことはあまりない。山登りと同じで、効率的にこなせたからといって、必ずしも嬉しいものではないという感覚だ。

 

とはいえ、論文は業績として評価される。「値段」のついた活動といえる。そう考えると、論文を量産するにはどうしたらよいのかという議論も当然のように起こるであろう。さて、この会合で挙がった案は以下のとおりである。

  1.  プロテクション・タイムを設ける
  2.  決まった時間に決まったことを継続する
  3.  楽しんで研究を続ける

割とよく言われることで、いずれも正しいとは思う。ただ、以上のすべてを経験している立場からすると、この3項目が並列されていることに違和感がある。

 

確かに、プロテクション・タイムがあれば、集中して一気呵成に論文を仕上げることができる。慣れない分野や形式の論文を書く時にプロテクション・タイムは重宝する。一方で、慣れた分野や形式の論文を書く時には、救急外来での検査の結果待ちの時間などの細切れの方がかえって上手くいくようにも思う。〆切効果というべきか、電車内でだけ読書がはかどる人もいると思うのだが、細切れ特有の集中力というものもあるのだ。プロテクション・タイムは、そういった細切れ時間に向かない作業を行うためだけに使うべきと考える。

 

ここで、ふたつめのポイント、決まった時間に決まったことを継続するという考え方が生きてくる。プロテクション・タイムは、苦手だけどやらなければならないことに割かれるべきで、そういう作業に入る前には儀式のようなものでもして気合を入れなければならない。その間、集中力をまったく途切れさせてはいけないわけで、「完璧なるプロテクション・タイム」でなければいけないのである。従って、電話が少しでもかかってくる環境であれば、それが研究専従の時間だとしても、プロテクション・タイムと呼ぶに相応しくない。我輩は職場でプロテクション・タイムのようなものを持ってはいるが、残念ながら病棟から30分に1回くらい電話がかかってくるので、難易度の高い作業は行えていない。慣れた研究なら問題なくスムーズにできるのだが、初めてやるタイプの研究はまったく捗っていないという現実がある。要するに、名ばかりプロテクション・タイムではダメだということだ。

 

ここで楽しんで研究を続けるという最後のポイントに移っていくわけだが、これはプロテクション・タイムとは別の議論になると思われる。というのも、先に述べた通り、プロテクション・タイムは不得手で苦手な作業に特化するための時間である。心から楽しめる研究に関しては、プロテクション・タイムをわざわざ設けなくても、食事したり、眠ったりする時間を削ってでも体が勝手に動いてやってしまうのではなかろうか(そして妻に首根っこ掴まれて、食べなさい、寝なさいと怒られるのだ)。楽しんでやれる研究は、無理に研究を効率化しようとしなくても勝手に加速する。問題点があるとすれば、楽しんでやれる研究と苦痛を伴う研究を並行してやっていると、つい楽しんでやれる研究に没頭してしまい、余暇を失い、たとえプロテクション・タイムを設けていようとも疲労困憊してしまって、苦痛を伴う仕事が手につかなくなるということである。

 

楽しんで研究をやるコツ? 自分でテーマを決める! これに尽きる。

 

私見をまとめると、研究において大切なのは決まった時間に決まったことを継続することである。習慣の力を使う。それ以外のポイントについては、研究の性質によって異なる。楽しくてしょうがない研究をやれているのであれば、(あるに越したことはないにしろ)プロテクション・タイムはそこまで多くを要さない気がしていて、体調管理をしっかりして、敢えて研究に没頭し過ぎないよう注意する。一方で、苦痛を伴う研究であれば、「完璧なプロテクション・タイム」がそれなりに必要である。そして、楽しい研究と苦痛な研究は同時進行でやらない方がよい。苦痛な研究が驚くほど進まなくなって自己嫌悪に陥るからだ。苦痛な研究を進めている時は、プロテクション・タイムの間だけでなく、それ以外の時間も他のことをなるべく避けた方がよいと思う。もっとも、それ以前の話として、苦痛な研究テーマを選ばないに越したことはないのだが。我輩も現在、苦痛な研究をふたつ抱えているが、これがなかなか進まなくてしんどい。楽しくて自分の価値観でしかなしえないような他の研究に逃避したい。それができれば、量産を意識しなくても気持ちよく量産できるのに。……いやいや、苦手な研究は新スキル開拓のため! 短期的に我慢我慢!