つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

2020年末に小さくレクチャーしました

 寒い日が続きますね。COVID-19の流行状況もおさまりがつかない中での年末になってしまいました。ここまで流行が続いてくると、ちょっと発想を切り替えた方がいいかもしれないですね。「いかに元の日常生活を取り戻すか」という観点でCOVID-19の流行を語る風潮がありますが、むしろこの流行を機に新しい日常を模索して思い切ってシフトしてしまうくらいの発想の方が滑らかかもしれません。凄く極端なことを言うと、COVID-19流行以前と以後とでは、もしかしたら産業革命以前と以後くらいの違いが出てきてしまうかもしれない。じゃあ、新しい世の中に向けてどう行動するべきか、そのあたりはまだItoも見定められていないというのが現状ですが……。ともかくも、逆境ばかりに凹んではいられないですね。逆境の中にこそ勝機を見出さないといけない。逆境だからこそ勝ちにいかないといけない。『論語』には「歳寒くして松柏の凋むに後るるを知る」という言葉もあるくらいですから。

 

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Tips for Residents: 本当は怖いUTI (尿路感染症)

 

 さて、医療現場は言うまでもなく、医学部教育も大きく影響を受けているみたいです。学生時代にガチ勉する方法について先週の記事で書いたばかりだったのですが、レクチャー希望があったということで、昨日 (2020年12月30日) に尿路感染症についての短いレクチャーを行いました。Zoomに課金していない関係上、40分と短いレクチャーで、おまけにマイクが不調だったので開催直後に結構慌てたのですが、携帯電話から別個にログインして音声を吹き込みながらPC操作をすることで上手く切り抜けることができました。時間制限があるとメッセージ性を意識してレクチャーするようになるので、これはこれで、20分強の子供向けアニメ1話分並みに寂しいながらも丁度いいのかもしれません。

 

 救急外来で当直していて、発熱患者さんが来ると大変ですよね。今はCOVID-19が流行しているせいで、その大変さが大いに増しているのですが、COVID-19が流行していない時代でも正直、骨が折れていました (そういえば「医療崩壊」という言葉がCOVID-19流行を機に語られていますが、茨城県や埼玉県ではCOVID-19流行以前からほぼ医療崩壊している状態で、訴訟に怯えながら回している状態だったので、個人的には街場の医療崩壊論をとっても複雑な気持ちで聞いています)。そんなボロボロの救急外来で発熱患者さんを診ている中、尿検査で膿尿が見つかると「よっしゃ! UTI (尿路感染症) だ!」と飛びついて思考停止してしまうわけです。

 

 特別な背景因子のない「男の尿路感染症」は基本的に誤診です。というか、ほぼ間違いなく誤診です。だけど、救急外来でそういう診断が下されがちなのは致し方なしとItoは思っています。というのも、救急外来には患者さんがひっきりなしに押し寄せてくる。睡眠時間も削られていき、吐きそうになりながらの過酷な状況下での勤務になるわけですから、ここで正確な診断云々を言っても無理な相談です。むしろ大切なのは、「男の尿路感染症」を救急外来から引き継いだ病棟診療医が診療の方向性を上手に修正すること。その軌道修正が可能な程度のプラクティス (最低限の身体診察をする、培養検査を提出するなど) がなされていれば、救急外来のプラクティスとしては十分だと認識しています。

 

 で、今回のItoの講義は、救急外来から「尿路感染症」として引き継いだ患者さんを病棟でどのように軌道修正していくかについてお話させていただきました。まず、軌道修正の難易度を下げる救急外来でのプラクティスについて……

 

救急外来でないと得づらい病歴

特に家族からの情報。抗菌薬投与歴が前医であるかないかが分からないと、検査結果のアセスメントができなくなってしまいます。つまり、疑心暗鬼になりながらの診療になるということです。

治療前の身体所見

所見は時とともに失われる。Itoは怒らないことを心掛けていますが、身体所見記載のないカルテを見た場合は怒る気がなくても怒らないといけないと思い直して、雷を落としています。

尿培養や血液培養検査を採取する

抗菌薬で有害事象が出た時の代替薬選択で超重要です。抗菌薬を使う患者さんの5人に1人が何らかの有害事象を起こすので、その際の代替薬選択のプロセスが手探りになってしまうわけです (Tamma PD, et al. JAMA Intern Med 2017;177:1308-15)。もちろん、培養を採取する理由は他にもたくさんあります。

概ね妥当な抗菌薬選択

一部の例外を除けば基本的にセフトリアキソンなどで十分。敗血症では抗菌薬投与が1時間遅れる毎に7%死亡率が上昇するというデータも古くからあります (Kumar A, et al. Crit Care Med 2006;34:1589-96)。抗菌薬が必要な状態だと見定めたら、躊躇なく抗菌薬を十分量で投入するべきです。

 

 この程度のプラクティスがなされていれば、入院後に病棟で軌道修正を行うことが可能です。逆に、これらが抜け落ちていると軌道修正不能で詰むことがあります (感染症コンサルタントとして詰んだ診療を解きほぐす行為もまた、捜査官の仕事みたいにchallengingで面白いんですけどね)。それで軌道修正をするにあたり、入院後に確認すべきこととしては……

 

本当に尿路系の感染症か?

無菌性膿尿という概念がある。虫垂炎やPIDでも膿尿は出る! 要するに、尿管外の感染症も意識しないといけないということです。詳しくはNEJMの総説を参照のこと (Wise GJ, et al. N Engl J Med 2015;372:1048-54)。

尿路系だとしたら、尿路のどこか?

前立腺炎尿道炎は対応が特殊! 前立腺炎では、感受性が許せばキノロン系やST合剤の使用が望ましく、その治療期間も長くなります (Schaeffer AJ, et al. N Engl J Med 2016;374:562-71)。また、尿道炎は性感染症としての要素が強いので、問診をしっかりしたり、他性感染症の併存がないか気にかけたりする必要があります。

特殊な菌が出ていないか?

例えば黄色ブドウ球菌が出る場合は感染性心内膜炎とかが心配。全身に回った黄色ブドウ球菌が腎経由で尿に出てきているのを見ているだけの可能性があるわけです。また、カンジダによる尿路感染症は極めて稀で、発熱患者に対してそのように診断している場合は、むしろ他に何かがあることを疑うべき……仮に腎移植後でもね (Goldman JD, et al. Clin Transplant 2019;33:e13507)。

 

 他にも色々とポイントがあるのですが、そういった内容を30分くらいにまとめてレクチャーしてきたわけです。筑波大学の研修医の先生だけでなく、過去にItoが教えていた東大生の皆さんも参加してくれて、とても嬉しかったです (これで安らかに年を越せそうじゃ)。ただ、レクチャー後に東大生の皆さんからもっと東大生向けにもレクチャーしなさいとお叱り(?)コメントをいただきました。確かに、2週間に1回くらい、こういうレクチャーの機会を設けられるといいですね。ということで、次あたりに「Advanced 5Days」を考えています (時期未定)。過去にItoがやってきた「5Days」という抗菌薬の講義があるのですが、その講義では分かりやすさを優先するために細かい知識を結構省略していました。そういった細かい知識を導入しながら「5Days」の内容を復習しましょうという趣旨で組み立てようと思っています。乞うご期待!

 

それでは皆さま。Stay homeで良いお年をお迎えください!

医学生の間にガチ勉するのなら

こんにちは。COVID-19流行の荒波に飲まれているItoです (ItoがCOVID-19と本格的に戦い始めたのが2020年1月23日のことだったので、今日からあと1か月で1周年記念になりますね……)。今週の前半は、外勤中に発生した飲み会クラスターの対応に追われることになったり、本拠地で病棟管理を1人でやっている日に新患を7人受け持ったりと、かなりしんどい日々でしたが、周囲のご協力もあって病院総合内科も何とか持ちこたえている状況です。お忙しいところにも関わらず、当科の負担を肩代わりしていただいている皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。また、飲み会に行きたいところを我慢していただいている一般の皆様も、ありがとうございます。皆様が「飲み会などの集まりに決して行かない」というアクションを起こすだけでも、医療現場に対する大きな支援になります。閉塞感の続く日々かとは思いますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

近況はここまでにして、前回のブログでは感染症講義の話をしたのですが、実はその講義には続きがありました筑波大学の学生さんが何人か講義室に残っていて、「医者になる準備として、学生時代どう過ごすのが良いか」と質問をいただいたので、1時間ばかり先輩風を吹かせながら補講っぽいことをしていました。医師経験4年目のクセに偉そうなことを……とは、内なるItoの声。

 

まず、医師国家試験やOSCEで学んだことが実臨床で役に立つかという問題。答えは、half yes, half noといったところでしょうか。国試をギリギリで合格するようなラインだと正直なところ役に立たないと思います。ただ、お釣りが出るレベルで勉強しておくと、common diseaseを中心に診ている初期研修医の間はあまり役に立たないかもしれませんが、rare diseaseも真正面から診ないといけなくなる後期研修医以降はそれなりに役に立ちます。「一度も聞いたことのない疾患」と「忘れたけどどこかで聞いたことのある疾患」との差は、恐怖心を拭えるという意味では結構大きいです。知識の再インプットも割と楽ですしね。

 

身体診察は患者さんを診る上で基本中の基本です (というか、診察しない臨床医は臨床医と呼ぶに値しません)。OSCEのレベルをすっ飛ばして検査依存の医師になってしまうと、診断出来ない疾患が出たり (感染症なら帯状疱疹前立腺炎など)、無駄な医療費がかかったりと、結構な不利益になります。逆に身体診察が上手ければ鑑別診断リストの質が高くなるので、検査プランを効率よく組み立てることができて気持ちいいものです。あと、お腹を触って一瞬で虫垂炎を診断する外科医の先生ってカッコいいですよね! 丁寧にお腹の診察を繰り返していると、虫垂炎 (非穿孔例)、回盲部炎、憩室炎の三者を診察だけで結構区別できるようになるので、上を目指すのならたくさん患者さんのお腹を触ると良いです。そして、今の話に少しでも心が動いた学生の皆さんには山中先生の『医学生からの診断推論』(羊土社) を強くお勧めしておきます。山中先生の本は、読んでいるとグイグイ引き込まれて元気になることが多いです。 

それに、聴診器を胸に当てることで凄く安心する患者さんも中にはいるので、診察手技自体が治療的な価値を持つこともあるんですね。逆に胸の痛い患者さんに聴診器を当てることもなく「プシコ!」(心の病) と言って帰すのはご法度ですぞ!

 

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OSCEや国試は実臨床に役立つ??

 

そういうわけで、学生さん、真面目に勉強しても損することはまずないので安心して勉強してください (勿論、勉強する時間を別のことに投資することで開眼する学生さんも一定数いるので、自分の人生観に合わせて上手くやっていただくのが良いです)。ここまでをベースラインとした上で、もっと上を目指したい学生さん向けの勉強法も紹介します。COVID-19の流行期なので、出来ないことも多いですが、それでも最近はZoomなどの遠隔講義も発達してきているのでやりようはあるハズです。

 

1.学会や勉強会に参加してみる
学会や勉強会といってもピンと来ない方が多いかと思いますが、アンテナを高くしておくとCOVID-19流行下でも日本全国でひっきりなしに学会や勉強会が開かれているのが分かります。対象は大抵の場合は医者ですが、初期研修医やプライマリケア医向けのものも少なくないので、そういったものに参加するのが良いでしょう。学会であれば教育講演が該当しますし、勉強会の情報は各種メーリスなどに入っていれば自然と回ってくるものです。そして学会も勉強会も、学生さんであれば無料で参加できることが多い (羨ましい!!)。当然ながら、学生さんにとって難易度は高めなのですが、臨床医に要求される事柄が薄々と分かってきますし、医師国家試験で高得点をとれるだけでは不十分であることも分かってくるかと思います。参考までに、Itoは日本病院総合診療医学会の教育講演やIDATENメーリスで流れてくる勉強会あたりが丁度良いのではと考えています。

 

2.医師向けの雑誌を読んでみる
学会や勉強会よりも少しハードルが上がるのですが、プライマリケア医向けの商業誌を読むのも骨太な実力が身につくと思います。具体的には、医学書院なら「medicina」や「総合診療」、文光堂なら「M.P」などが該当するのですが、どの雑誌を選ぶかは好みの問題ですね。長い目で見ると執筆者が重複してくることが多いので、本当に好みの問題です。学生の間にこの手の雑誌を読み始めると、最初の半年はチンプンカンプンなのですが、それ以降は段々と内容が理解出来てくるもので、初期研修2年間に対してもお釣りが出るくらいの知識はつくかと思います。欠点としては、医師国家試験で議論の分かれる問題が出題された時に、色々と勘ぐって誤答を選んでしまう可能性があることでしょうか (日本のガイドラインと欧米のそれとでズレがある時に起こりがち?)。本棚が溢れてしまうことがあるのも地味に困る欠点です。

 

ここまで課金コースの勉強法でしたが、最近は無料でも結構勉強できる環境が整備されています (なんとまぁ、いい時代に生まれたもんじゃのう)。金銭のかからない方法としては、西伊豆カンファや医学界新聞の記事を使って勉強したり、医学部図書館の本を片っ端から借りて勉強したりするのがいいと思います。

 

3.メンター (お師匠様) を持つ
一番 (圧倒的に) ハードルが高いのがこちら。だけどリターンも大きい。学生時代に自分のお手本になるような先輩医師を見つけて師事出来ると、大きく飛躍するきっかけになることが多いです。独学でもかなり力を伸ばすことが出来ますが、それでも独学だけだとどうしても未知に挑戦する機会を掴めないという問題点が生じるんですよね。学生の身の丈に全く合わないような挑戦の機会をモノにしたい方は是非メンターを積極的に探すといいです。具体的な探し方としては、勉強会などに参加して出会いに賭ける方法もありますし、ラブレター (?) を送って弟子入りを願い出る方法もあります。礼儀がしっかりしていれば、人生色々と許されてしまうものです。ただ、どうしても出会いというのは偶発的なものなので、日頃からしっかり勉強して将来のメンターのお眼鏡にかなうくらいの実力を備えておくのが一番大事なことかと思います (日頃の努力が必ずしも評価されるとは限りませんが、それでも顔に染み付いてしまった努力というのは見る人が見たら分かってしまうものです)。

 

4.COVID-19が収まり次第、病院見学をたくさんする
これは実力をつけたい人向けというよりは番外編ですね。病院見学をたくさんすると、出会いが増えます。地方病院の研修プログラムは案外、都心の有名プログラムよりも充実していることがあります。それに、ウマの合う指導医を見つけられるかもしれません。病院見学のついでに日本中の名所を旅するのも非常に有意義です (詳細は省きますが、色々な意味でお得です)。医師になると学会でもない限りは旅行なんてする暇がなくなってしまいます。あと、病院見学をする場合は複数日見学していくことをお勧めします。どんな病院にも美点・欠点があるもので、1日見学なら欠点を隠蔽することも容易いのですが、複数日見学だと欠点が徐々に露呈するもの。その露になった欠点が自分の性格などに照らして許容できるものであれば、その病院は “自分に合った病院” と考えられるわけです。あとは研修医の先生の目の下にどれくらいクマが出来ているかもよく見ておくといいです (今はCOVID-19流行期なので、目の下にクマが出来ている医者が圧倒的に多い状況ですが……)。参考までにどうぞ。

専門医機構の抗菌薬講義をしてきました!

こんにちは、Itoです。寒さのあまり、湯たんぽを手放せません。そして、プロトンポンプ阻害薬 (PPI) が低Na血症の原因になる可能性があるという話を昨日小耳に挟んでこの1年間最大の衝撃を受けております。

まだ症例報告や症例対照研究くらいしかなくて、確定とするには根拠が足りない印象も受けていますが、今後の報告に要注目かと思います。当科は脳出血の患者さんをかなり多く診るので、ストレス潰瘍予防でPPIを使うことも少なくはないのですが、そういった患者さんで低Na血症を見かけたら「抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 (SIADH) vs. 中枢性塩類喪失症候群 (CSW)」の二項対立に囚われず、薬剤性もしっかりと鑑別診断に入れないといけないなと改めて感じました。

 

それ以前に、漫然とPPIを処方しないようにして、本当にPPIの適応があるかどうかを繰り返し評価することも大切ですね。Stanford大学の出しているガイドラインやCrit Care Med 2016がよくまとまっていますよ!

 

さてさて。

遡ること、1週間……

新型コロナウイルスの流行下でレジデントレクチャーなどの講義ものを制限せざるを得ない中でしたが、感染対策をしっかりした上で、専門医機構の抗菌薬講義が行われました。今回は病院総合内科のItoが担当させていただきましたが、会場参加いただいた皆様、誠にありがとうございました! お陰様でItoも楽しくレクチャーをすることが出来ました。ホワイトボードを使うともっとIto無双出来るのですが、それはまたの機会ですね。

 

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2020年12月10日にレクチャーしました!

 

抗菌薬のスペクトラムというと暗記もののイメージが強いですよね! 最近は分かりやすい本が増えていますが、あくまで「読み通しやすい本」が増えただけで、「頭にインプットしやすい本」は未だに出版されていません。言い換えると、抗菌薬の知識をお粥のように柔らかくした本は数多く出版されていますが、抗菌薬の知識をパエージャのように美味しく料理した本は未だに書店では見かけないわけです。知識が躍動していない。研修医の先生の本棚に複数の抗菌薬本が並んでいるのは、つまりはそういうこと。

 

……そんな状況に一石を投じたいと思って、Itoは東大感染症内科在籍時からずっとレクチャーを続けています。抗菌薬は、ちゃんと向き合えば本当はもっともっと面白いんだぞーってね。

 

一見暗記ものに見える学問分野って、実は歴史背景と合わせて理解するとスッと頭に入ることが多いんですよ。今回のレクチャーでItoは抗菌薬を題材にそれを実践したのですが、実はこのやり方は漢方薬を覚える時など他の暗記ものでも有効です。いきなり「桂枝加芍薬湯は過敏性腸症候群に効く」なんて覚えてはいけません、頭が消化不良を起こすに決まっている。「桂枝湯は芍薬を含む漢方薬でお腹の弱い風邪患者さんによく使う」というところから入って、芍薬はお腹に優しい、腸の攣縮を鎮めるイメージ」と理解してから芍薬を増量した桂枝加芍薬湯は過敏性腸症候群に効く」というふうにインプットするといいですよ。そうすると「桂枝去芍薬湯は桂枝湯から芍薬を抜いたものだから、お腹への作用が減って胸のつかえへの作用が主になる」というふうに応用もきくわけです。このやり方は、漢方の古典『傷寒論』を踏まえた漢方の歴史の流れに沿った方法論になります。

 

それと、似ているものをしっかりと区別する、というのは学問における基本中の基本です。Itoが初めて "お師匠様" を得たのは中学1年生の時でしたが、その英語の先生は「似ているものを区別出来ないならむしろ学ばない方がマシ」と何度も仰っては、ひたすら中坊時代のItoに誤文訂正問題ばかりやらせていましたね……。個人的な体験談はこのくらいにして、暗記分野の暗記量が膨大でキツいのは、それぞれの要素に重要な差異があるからです。差異が重要でないのなら、そもそも暗記する必要なんてありません。そういうわけで、暗記ものほど類似性に丸め込まれないよう注意しないといけないですね (逆に、全然違う事柄の中に類似性を見出すのは創造性のなせる業です)。

 

上記を踏まえて、Itoは以下のことに注意して抗菌薬を教えるようにしています。

ペニシリン系は第一次・第二次世界大戦の中で抗ブドウ球菌薬として開発され改良されていったが、戦後大量生産・消費社会の中で次第にブドウ球菌大腸菌に耐性をとられていった (アンピシリン・スルバクタムのあの歪なスペクトラムは歴史上の必然!)。

セフェム系ペニシリン系と同じβラクタム系で、グラム陽性球菌やグラム陰性桿菌のスペクトラムが広いが、ペニシリン系との決定的な差異が数点ばかり存在する。即ち、腸球菌・リステリアと腸管内嫌気性菌はセフェム系特有の弱点 (僅かな違いだが実臨床に与えるインパクトが結構大きい!)。

 

繰り返しになりますが、歴史の流れを意識してストーリーを組み立てることと、似ているけど違うものをしっかり区別すること、この2つが暗記ものでは本当に重要です。恐らくはどんな学問分野でもある程度は通じるんじゃないかと思います。そして、学ぶことの醍醐味はバラバラな知識を統合して新たなる物語を紡ぎ出すところにあります。だからこそ学問はやめられないのだよ!!

 

なお、Itoの抗菌薬講義は医学雑誌「medicina」の2021年4月号にも掲載される予定ですので、興味のある方は是非、書店で立ち読みでもしていただけると嬉しいです。ではでは、また!

まずは診療科の紹介から!

はじめまして。筑波大学附属病院の病院総合内科のItoと申します。病院総合内科はまだ開設間もない診療科で、対外的な宣伝もこれまであまり行っていなかったのですが、上の先生方からバンバン宣伝してもらって構わないとお許しをいただいたので、この場を使って積極的に発信していこうと思います。よろしくお願いいたします。

 

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つくば駅から筑波大学への小道

 

筑波大学附属病院 病院総合内科は、いわば “黎明期の総合内科” です。筑波には他に総合診療科もあるのですが、そことは別の診療科になります。総合診療科は外来や家庭医療をメインにしていますが、病院総合内科は病棟医療をメインにしているというところで棲み分けが出来ています。

 

それで、創業期を謳う病院や診療科は数多いのですが、当科は本当の意味での黎明期です。筑波大には元々総合内科の病棟がなかったのですが、新専門医制度開始にあわせて救急を中心に幅広い内科研修ができる場として、またサブスペシャルティを決めずに内科専門医を目指す先生の所属できる診療科として、病院総合内科が設立されたわけです (救急・集中治療科のバックアップを受けています)。で、それが2017年のことだったので、まだ数年の歴史しかないんですよね。

 

どんな患者さんを診ているかというと、救急外来からの軽症~中等症患者さんの入院管理とか、重症でICU/HCUに入院していた患者さんの気道・循環安定後の入院管理引き継ぎなどを主な内容としています。つまり、臓器別ではないので割と何でも診ています。アナフィラキシーや薬物中毒、肺炎・腎盂腎炎などの感染症はもちろんのこと、大動脈解離やクモ膜下出血、多発外傷なども多く診ていて、「えっ、これは内科……なのか!?」と思う瞬間も多々あります(笑)。

 

とにかくバリエーション豊富で、今後は統計をとって円グラフにでもして概算値を公開しようかとも思っているのですが、正直なところ内科専門医制度での必要症例は他科をローテせずとも余裕で集まってしまいます。ちなみに、ごく一部 特定の疾患、例えばギランバレー症候群や皮膚筋炎などは当科ではお目にかかれないので、そういった当科での研修の弱点 (そしてその対処法) もしっかりと公表していきたいと考えています。弱点克服の第一歩は、弱点を直視することから! です!

 

「症例経験が豊富」と謳う場所の常として、結構仕事がキツいことが多いのですが、当科は (創業間もないゆえに) そのあたりのサポートがかなりしっかりしています。常時5~15人の患者さんを2人の専攻医と0~2人の臨床研修医で診ていて、それを指導医の先生が監督しているという体制なので、キツさとしては程よいレベルです。また、“病院総合内科” という名前ですが、救急・集中治療科が創設に関わっている関係上、時間のオン・オフにはかなり意識的です。夜間はICU当直の医師が病棟の入院患者にも対応するため、基本的にはコールフリー。自分で言うのもアレですが、豊富な症例を疲弊しすぎることなく診られるこの体制はかなり恵まれていると言えるでしょう。

 

(創業間もないがゆえに) 良くも悪くも、自由度の高い場所です。いわゆる教育病院として高名な場所はランチョンセミナーや抄読会などが充実しているものですが、当科にはそういうのは最低限しかありません。強いてあるものを挙げるとすれば、入院患者さんの原疾患などに関する論文をメールで共有して毎日ディスカッションをしている、くらいでしょうか。教育体制の伸びしろが凄まじいので、教育のノウハウを持った人が1人参入するだけでも科の雰囲気が大きく変わるというポテンシャルを有していると考えることも出来ます。

※ 当科での具体的な教育内容についてもいずれ公開しようと思っています。また、時に感染症のレクチャーなどもしているのでそれも順次開示ですね。

 

論文も実はかなり力を入れています。当科のコアメンバーはたった4人ですが、2020年4月から12月までの9か月でなんと、PubMed掲載論文を18本アクセプトさせています。ほぼ症例報告とレターが占めているのですが、それだけ症例が豊富だということなんですよね。中にはClin Infect DisやAm J Medなどの一流誌にアクセプトされた論文もあるのですが、まだ執筆時点ではPubMed内に反映されていないものがあるので、そのあたりはしばらくお待ちいただければ……

※ 当科ではローテートした研修医の先生方が多くPubMedデビューしています。論文に関しても順次公開していきますよー!

 

まだ創設間もないので最終的にどんな診療科になるのかは誰にも、全く分かりません。診療科の形は人が作っていくものなので。理想形としては、構成員が病院総合内科にフィックスするのではなくて、構成員が病院総合内科を足掛かりに各診療科とか他の病院などでも学んできて、そこで得た知識を病院総合内科に還元する――そんな新しい形の医局のあり方なんてどうだろう。そんな場所が日本全国に一箇所くらいあってもいいですよね! 外枠のふわふわした、“出入り自由” の医局。あるいは、帰れる場所としての医局を作ってみようというのです。

 

もしかしたら、茨城県ということで東京からの遠さに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、秋葉原からつくばまで実は電車で僅か45分。ご飯は美味しくて、大学近くには図書館とか博物館がたくさん。「研究学園都市」と呼ばれるほど国立の研究所や製薬会社をはじめとした企業研究所が数多くあり、あちこち見学すると子供も大人も楽しいです。緑については言うまでもなく、木々の香りを乗せた空気の美味しい、広く伸び伸びとした場所です。そういうわけで、つくば市は「住めば都」のハードルが極めて低いのではないかと思いますよー! Just try it!

 

本当にまっさらな状態からスタートしている筑波大学附属病院 病院総合内科ですが、皆様どうか温かく見守ってください! 改めてですが、よろしくお願いいたします!!