つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

学問と習慣 (4/4)

継続的に勉強する仕組みを作り出すための工夫を紹介する内容も、今回で一区切りですね。最近、鶏むね肉を如何に美味しく調理するか、試行錯誤しているItoです。鶏むね肉は硬くてパサパサしているので主婦から忌み嫌われがちなのですが、仕込みをしっかりやれば他の部位の肉と同じように美味しく調理することができるので、チャレンジする価値大ありです。

 

具体的には、鶏むね肉1ブロックを長軸方向に2つに切り分けて、塩小さじ1/2、砂糖小さじ1、酒大さじ1を揉みこんでジップロックに放り込んで冷凍すればOKです (冷凍時にブロック同士がくっつかないよう離しておくべし)。鶏むね肉は茨城水準だと100 gあたり65円くらいで買えますし、冷蔵だと保ちませんが、冷凍なら1か月くらい保ちます。食べる際には半日弱かけて常温で解凍し、塩胡椒のシンプルな味付けで焼くだけでも結構美味しいので、苦学生諸君はレタス保存法と一緒によく覚えておくべし。

※ 因みに仕込む時間がない時は、チタタプって唱えながら包丁の峰で細かく叩いて、断面積が大きくなるよう斜めに切を入れれば、柔らか美味しくなりますぜ。

 

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田中清月堂(茨城県土浦市):綺麗で美味しいのに安くて驚いた、感激!

 

安くて健康的な食事の話を続けていきたい気持ちも山々ですが、本題に戻りましょうか。今回は「バインダー法」について紹介。もっとも、「法」というほど大それたものではないのですが……。東大教授からの受け売りです。

 

東大医学部には面白い先生がたくさんいらっしゃるのですが、当時栄養学の教鞭を執っておられたのが、S木先生でした (現・栄養疫学分野教授)。S木先生の講義は、肥満パラドクスなど臨床研究の胡散臭い箇所を指摘して、それを切り口に栄養学を解説するという非常に刺激的なスタイルだったのですが、配布される論文のコピーの右上に必ず5桁の番号が振ってあったんですね。

※ 余談ながら、S木先生から教わった肥満パラドクスの概念を応用して、後年Itoも肺炎パラドクスの論文をPulmonologyからpublishしています。

 

S木先生ご本人が仰るに、「これは僕が論文を読んだ順番に通し番号をつけているんだ」とのこと。逆に言えば、この先生は論文をこれまで5桁本読んでいるということになる。当時のItoも論文を読む習慣はなかったので、「どうすればそんなに論文を読める体質になれるんだろう」と興味津々だったわけです。

 

そんな学生サイドの期待に応えるように、S木先生の種明かしが始まりました。「論文を大量に読めるようになるには、論文をバインダーに閉じればいい、それだけです。論文をバインダーに閉じると、読んだ論文がどんどん溜まっていく。積み重なっていくのを見ると読んだ感じがして楽しくなってくるんですよ」とのこと。それで、Itoも論文を読めるようになりたかったので、その日の帰り道に100円ショップでバインダーセットを購入して、早速読んだ論文をバインダーに閉じるのを始めました。

 

確かに、S木先生の仰る通り、論文が積み重なっていくのをみると、自分が日々強くなっているような気がして楽しい。ドラ〇ンクエストでレベリングするような感覚で論文を読みこなせるわけです。そんなノリで論文読みに夢中になっているうちに、気が付けば論文を読まないと精神的に参ってしまう体質に変わっていたという次第です (この体質は、一度なってしまうとなかなか厄介なものですぜ)。

 

ただ、この「バインダー法」には欠点があります。半年続けると住居が論文に占拠されてしまい、足の踏み場がなくなってしまうのです。大学6年生の終盤にベッドまで論文の山に占拠された時は、仕方なくバインダーの上に寝ていた時期もありました (後で親に滅茶苦茶叱られた)。結局、医師2年目の時に論文の重さで床が抜けた段階で「こりゃ無理だ」と悟り、Itoは「バインダー法」を卒業しました。でも、論文を読む習慣は身に着いてしまっていたので、「バインダー法」なしでも論文は読めるわけですね。良いきっかけでした。

 

ここまで、どのようにして学問習慣を確立したかの断片的なmethodsの話をしてきました。ただ、紹介した3つのmethodsをやれば習慣化できるかと言われると、そうとも言い切れない。Itoも色々と試行錯誤してきました。その中で振り返ってみたら、この3つが最も大きな要素だったんじゃないかな……そんな感じで綴っています。結局のところ、諸葛亮が『誡子書』に書いているように「志がなければ学問の完成はない」というところに尽きるんじゃないかと思うんですよ。志あればこそ、こういったmethodsもはじめて生きてくる。

 

わざわざこうしてmethodsを開示したのは、志はあるけれども、それをどう世の中に還元していけばよいか分からず戸惑っているような、学生・研修医諸君のためです。ツノを矯めるような教育に苛立ちを覚え、もっと上を目指したいと願う諸君であれば、Itoの示した3つのmethodsがきっと役に立つでしょう。それでも難しいという方は病院総合内科にいらっしゃい。Itoが必ずや天井を打ち破って見せましょう。