つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

病院総合内科 2020年度入院実績

こんばんは、Itoです。コロナ禍で疲れていることを盾に先延ばしにしていた診療科の入院実績を集計したので、今回はその公表回です。筑波大学附属病院 病院総合内科の知名度は院内・院外いずれに対しても結構低くて、公開されている情報も少ないのでItoが代わりにそれをやりました、というわけですな。少しずつレビューしていきますぞ。

 

まず、2020年4月1日から2021年3月5日までの入院患者数は、Itoが把握している範囲では191名でした。ただし、Itoが夏季休暇や有給休暇をとっている間に何人か一泊~数日入院の方がいらっしゃったようなので、実際には約200名の患者さんが入院していたものと推定されます。直接診療に当たっているのが後期研修医2名 ± 初期研修医1名で、200名/300日くらい。平日はほぼ毎日新患さんが1名入る計算になりますが、実際のところは4名一気に入院したり、入院1名だけの週があったりと、かなりバラツキが激しいです。救急外来や集中治療室からの入院なので致し方ない、といったところか……。体感的には、ギリギリ丁寧に診療できるライン、でしょうかね。繁忙期がかなり辛いので、あと1人は実働部隊が増えてほしい……。

 

様々な分野の患者さんが入りますが、こちらもさすがにバラツキがあります。疫学的に多い消化器や循環器疾患がメイン……かと思いきや、脳出血 + 痙攣重積があまりにも多すぎて、実は脳神経疾患がトップです。常に脳出血の患者さんが1人は入院している感じです。あとは腎盂腎炎 (その他枠) も多いです。全体的には外科系疾患の方が内科系疾患より多いかもしれません (えっ!?)。なお、この集計では入院契機となった疾患と入院中に医療資源を多く投下した疾患を計上しているため、高血圧症や糖尿病などのアクティブでない疾患はカウントしていません

 

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2020年度診療実績 (Ito集計)

 

脳神経分野

脳出血 22名、痙攣重積 16名、出血を伴わない脳震盪 11名がトップ3で、脳出血と痙攣重積はそれなりにオーバーラップしています。他には脳梗塞、脳膿瘍、細菌性髄膜炎パーキンソン病をそれぞれ5名~10名くらいずつ診療していました。

脳出血 (クモ膜下出血や硬膜外血腫など) は神経学的予後の悪い気切後症例を診る機会が多く、障害された身体機能を補完すべくありとあらゆる支持療法を行うことになります。転院調整もかなり難渋することが多く、医師としては交渉力の試金石とも言えるでしょう。

脳膿瘍は感染性心内膜炎由来のものを診ることが多くて、肺内シャント症例などは今のところは見かけないですね。NEJMの総説片手に手ぐすね引いて待っているのですが、なかなか、ね。稀な起因菌による脳膿瘍症例を1例、研修医の先生と症例報告しています。

あと、パーキンソン病を診るといっても多くは未診断で、診断後もL-DOPAやドパミンアゴニストを病院総合内科で導入してしまうことが多いです。ドパミンアゴニストを漸増する過程での幻覚対策などは鎮静薬の細かな調整が必要で、ここで攻めの姿勢に出ると容易に誤嚥性肺炎を起こしてしまう難しさがあります。

その他の神経疾患で若干頻度の少ないものとしては、視神経脊髄炎、痙攣後Todd麻痺、筋ジストロフィー、マルキアファーヴァ・ビニャミ症候群なども病院総合内科で経験しています。原発性と思しき脳腫瘍が見つかることも結構ありますし、高アンモニア血症性脳症を診断して論文化したこともありました。

 

循環器分野

心不全の急性増悪 10名、大動脈解離 10名がツートップで、あとは心房細動を併存しているなど、注意深い管理を要する並存症として診ることが多いです。感染性心内膜炎もそれなりに診るので、オスラー結節などを学生さんに見せるにも非常に向いた診療科なのですが、病院総合内科の認知度の低さのせいか、勿体ないことに学生さんの見学はないですね。この領域は特徴的な身体所見が特に出やすくて、患者さんから同意をいただいた上で、他診療科に学生向け教材として写真やビデオを提供することも多いです。

さて、病院総合内科を語る上で欠かせないのが大動脈解離です。本当はガチ心臓外科疾患なのですが、何故か病院総合内科で診ることが多いです。反応性頻脈を回避しながら慎重に降圧していくノウハウを実戦で学べるのですが、例えば元々腰痛持ちの患者さんが背部痛を起こしてしまった時にどこまで検査するかなど、ヒヤヒヤする場面も多いですね。

機械弁や人工血管の感染も、多いとまでは言えませんが何例か診ていました。不明熱として入院して、何事もなく退院して、半年後にまた発熱で入院して診断がつく、みたいなパターンがそれなりにあってなかなかchallengingです。

 

呼吸器分野

とりあえず市中肺炎と誤嚥性肺炎。以上、と言いたいところですが、病院総合内科では外傷性血気胸をそれなりに診療します。内科だけどフレイルチェストとか。気管支喘息は数例程度と、あんまり診ないです。

総じて、病院総合内科で呼吸器疾患を診る機会は少ない印象で、呼吸器内科でしっかりと診ていただいているのだと推察します。COVID-19も感染症内科が主科になっているのでItoも外勤先以外ではほぼ診療していないですね (Itoの場合、半年前に筑波大学内でロジスティックスを担っていた時期もありましたが……)。

 

消化器分野

消化管出血が6名、あとは脱水を伴って重症化した腸炎が数例。カンピロバクター腸炎を2例くらい診た気がします。あとは肝硬変で低血糖を起こす症例とか、繰り返す誤嚥性肺炎として加療されてきた術後胆管炎の症例とか。論文化したものとしては、α-グルコシダーゼ阻害薬による門脈気腫の症例があります (2021年3月7日時点で未出版)。

消化管出血を起こしている患者さんが深部静脈血栓症肺塞栓症を起こした時のマネジメントがなかなか悩ましくて、如何にして予防するか先回りして考えるようにしたいですね。

 

腎臓分野

腎臓分野は腎臓内科に診ていただけることが多いので、病院総合内科で引き受けることはさほど多くないのですが、熱中症シーズンになると急性腎不全症例を結構多く診ますね。透析している患者さんもそれなりには診ていますが、腎臓内科から内服薬について積極的に提案していただけることも多いので、何らかの事情で病院総合内科に入院してしまった場合も安心して診療にあたることができます。

 

代謝内分泌分野

代謝内分泌分野も代謝内分泌科が積極的に患者さんを診ていることが多いので、病院総合内科で診るのは糖尿病性ケトアシドーシス低血糖の症例など、いわゆる救急色を帯びているものが多いです。あとはイレウスの背景に隠れた甲状腺機能低下症が結構多いので、注意深くバイタルサインを解釈しないといけません。低Na血症による意識障害もそれなりに診ますが、その多くはSIADHか中枢性塩類喪失症候群です (前述の通り、脳神経分野の症例が多いので)。論文化したものとしては、研修医の先生と一緒に書いた膵炎を背景とした飢餓性ケトアシドーシスの症例があります。

 

アレリウ分野・血液分野

アレリウ分野の疾患は滅多に見かけませんが、不明熱と関節痛のある患者に乾癬を見つけたり、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に大動脈解離を伴った症例を論文化したりと、たまーに診療しています。本当にたまーに、です。スチル病……いやぁ、確定診断例は診たことないです。

同様に、血液疾患も滅多に診なくて、並存症として診る機会が多いです。具体的には、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、特発性血小板減少性紫斑病あたり。入院契機となった疾患を治療している中でジワジワと全身状態を悪くしてくるような、そんなイメージ。謎の凝固異常症例で、ビタミンB12欠乏性の偽性血栓性血小板減少性紫斑病を診断して論文化したのも良い思い出です。

 

その他

感染症だと圧倒的に多いのが腎盂腎炎 15名で、化膿性脊椎炎や急性前立腺炎も数か月に1例くらいは診療します (病院総合内科に入院してから診断されることが多い)。あとは多発骨折や頚椎損傷、眼窩底骨折などの骨折症例が14例とまあまあ多いです (手術適応のない骨折は内科疾患?)。精神科疾患では統合失調症摂食障害が多くて、リフィーディング症候群への配慮を要する場面もしばしば。統合失調症による水中毒と横紋筋融解症の組み合わせへの治療はcontroversialで、問題提起も兼ねて論文化しています。それと薬物中毒はカフェイン中毒が多いのですが、これは学生さんが試験前に切羽詰まって服用するパターンが多いですね。熱傷症例は、全身熱傷も気道熱傷も診ていましたが、最近は形成外科に全身熱傷の症例を引き取っていただけることも増えてきて非常に助かっています。

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何とか、まとめました。正直しんどかったですが、少しは病院総合内科の実態を外部に示せたのではないかと思います。アレリウ分野と血液分野 (白血病) を除けば、内科専門医の必要症例は容易に集められると思いますが、いずれどこかでJ-OSLERと照合しながら、病院総合内科の得意分野と苦手分野を詳らかにしていけたらと考えています。非常に症例が多いので、容易に症例報告を出すこともできてしまいます。

 

まさに医療行為のデパートともいえる部門なので、トレーニングには多分最適。駆け出しの若手集団で、誰も疾患の知識を持ち合わせていないので、愚直に総説論文を読んで、書いてある通りに診断や治療をするわけですよ (そして、論文通りの経過にならなかった症例は迷わず症例報告すると結構アクセプトしてもらえる)。そんな病院総合内科の知名度をもう少し上げられたらいいなと考えているのですが、なかなか認知してもらえなくて人を集めるのも大変です。引き続き広報頑張ります。なお、病院総合内科の英語表記は Division of Hospital Medicine です。本当は英語表記なんてなかったのですが、論文を出す際に困ったのでItoが勝手に命名してしまいました。まぁ、気がつけば公式名称になっていたことだし、そこは大丈夫かな。