つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

僕らは茨城の歴史を知らない

筑波大学附属病院 病院総合内科に来る以前からずっと考えていることがある。なぜ茨城県はなかなか発展していかないのだろうかという疑問だ。物心ついた1990年代半ば、その頃はまだつくば市土浦市には活気があった。つくば市には西武デパートがあったし、土浦市にも大きなトイザらスイトーヨーカドーがあって、最低限の衣食住のみならず、余暇を楽しむにも不自由のない場所であった。少しガラは悪かったが、ネオジオワールドなんていう娯楽施設もあって、時折遊んでいたのも懐かしい。後から振り返ってみると、当時はバブル崩壊後に少しずつ貯金を切り崩しながら辛うじて繁栄を保っていただけだったのかもしれない。

 

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つくば駅前はだいぶ変わった…… (2017年2月28日の衝撃ニュース)

 

茨城県を20年以上見てきた人間の実感としては、守谷市を除く県全体がつくばエクスプレス線の開通した2005年を境に落ちてしまったような印象があって、そこにイオンモールが進出することでほんの少しだけ持ち直して「衣食住 + α」の状態で低空飛行しているような、そんな感覚である。もっとも、「落ちてしまった」とはいっても、日本経済全体としては少しずつ成長しているわけだから、2005年と2021年を単純比較すると2021年の方が色々と進んではいるのだろうが……。

 

つくば市土浦市茨城県南地域にあたるが、水戸市などの茨城県北地域も例外ではないのだろう。そんな茨城県をずっと見てきては、どうすれば茨城県を再生させられるのだろうかと疑問に感じてきた。筑波大学附属病院の病院総合内科を盛り上げたいという気持ちも、実は茨城県を盛り上げたい気持ちの裏返しである。ひとつのまとまったコミュニティを盛り上げるにはどうすればよいのか、それを知りたいがために経済学の本とか政治学の本とかも読む。つくば市立中央図書館は、そういった読書欲を満足させてくれる(つくば市のインフラ面は今でも優れていると思う)。それでも、まだまだ答えからはだいぶ遠い。

 

そもそもなぜ茨城県は(体感的に)こんなに落ちてしまったのだろうか。色々と要因はあるだろうが、個人的には茨城県が歴史を捨ててしまったというのもひとつの大きな要因なのではないかと感じる。ここでは、茨城県に歴史がないというのではなく、歴史を捨ててしまったと言った方が適切である。

 

実際、茨城県にはちゃんと歴史がある。古くは平将門の乱が有名だが、それ以前に鹿島神宮を起点として武術の諸流派が勃興した。茨城県を戦国時代に治めていた佐竹氏は、大大名である北条氏や伊達氏に対抗できるレベルの勢力だったし、佐竹氏転封後の江戸時代には徳川御三家たる水戸家や譜代の牧野氏、土屋氏などの有力な大名が茨城県を統治していた。もちろん、例えば水戸藩は御三家という家格に比して石高が少なかったという不利もあったろうが、それでも歴史的に茨城県は発展に有利な材料を多く持っていたように思う。

 

それで、確かに茨城県は栄えた。水戸学という学問の中心地となり、それが尊王攘夷思想に昇華して日本全体のムードとなった。偕楽園弘道館に見られる通り、武を伴いながらも文化的に栄えることに一時は成功しているのである。ところが、幕末期の茨城県はどうもエネルギーを蓄え過ぎたらしい。水戸学は過激派を生み、派閥を生み、内紛を引き起こしてしまった。世にいう、天狗党の乱である。これらの内紛で茨城県はリーダーを担える人材を多く失ってしまい、血で血を洗っているうちに次の時代へのエネルギーを失ってしまった……そんなふうに後世からは見える。

 

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天狗党の名前を冠した水戸納豆

 

最終的に、水戸学の尊王思想は長州藩などに引き継がれて明治維新の原動力になった。しかし、水戸学のことは新政府から綺麗さっぱり忘れられてしまったようで、その後茨城県が日本の政治を担うこともなかった。重要な歴史を有していながら、忘れ去られてしまったのである。茨城県民の自虐ムードの根底には、こういった歴史的背景も絡んでいるのではないかと思わず感じてしまう。「茨城県に歴史なんてものはなかったんだ」という感じで。

 

個人的に、最近の大河ドラマは言葉遣いなどがしっかりと吟味されていなくて嫌いなことが多いのだが、それでも「青天を衝け」で水戸藩天狗党の乱が取り上げられているのは良いことだと思っている。茨城県民が今回の大河ドラマを契機に歴史を勉強すれば、茨城県民も少しはメンタリティ面で強くなれるのではないか。

 

「歴史を知らない者は歴史に罰せられる」なんて言うと、歴史学者でもない奴が何を言っているんだと言われてしまいそうだが、それでも歴史を勉強することは今の自分を知ることに繋がってくるのでお勧めしたい。興味があれば是非、茨城県を見つめなおして各々再評価を試みてほしい。みんなが思っているほど茨城県が「遅れた」場所、あるいは「ださい」場所でないことを、きっと分かっていただけるはずだ。