つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

茨城のレンコン農家

茨城県は日本有数の米どころであり、その生産量(重さ)は平成30年の農林水産省のデータによると都道府県全体で8位にあたるようだ。いつも食べている茨城県コシヒカリ、これはなかなか美味いもので、自分も色々な場所に旅したり下宿したりしているものの、米に関してはなかなか舌が肥えてしまってうるさくなってしまっている。

 

しかし、茨城県の農産物といえば、何といってもレンコンである。「先を見通すことができる」という縁起物ということもあって、他県ではなかなか日常の食材として食べる機会の少ないレンコンなのだが、茨城県では比較的容易に手に入ることもあって、レンコンハンバーグ(ハンバーグを2枚のレンコンで挟んで焼く)がよく食卓に並んでいる。

 

それくらい身近なレンコンなのだが、レンコン農家の生活がどうなっているのかというのは茨城県民の間でもあんまり知られていないのではないだろうか。レンコン畑に一度足をとられて沈みかけた経験がある人なら同意いただけると思うのだが、レンコン畑はとっても深くて、従って、レンコンを収穫するためには胸のあたりまで泥につからないといけない。そうすると、特に夏場なんかは熱が逃げていかないので本当に肉体的な負担の大きな仕事になるようだ。

 

しかも、レンコンがどこにあるのかなんて、泥の上からじゃ推測するのも難しいわけで、レンコン農家の方はホースからのジェット水流を畑の底の部分にあてることでレンコンを “掘り起こして” 上がってきた部分を柄の短い農具で刈って収穫するやり方でレンコンを採取するのだそうだ。想像するだけでもその苦労のほどが伺えるが、気候の問題などもあるので想像をはるかに上回る大変さだと思っていなければなるまい。

 

時に日本の農業は全体的に苦境に陥っているようだ。プロセスを詳細に説明すると長くなるので割愛するが、低価格路線での競争原理が導入されてしまった結果、利潤が出にくい構造になってしまっている。特に物流などの価格上昇のあおりをうけてしまうと、ますますこの苦境が助長される。さらに、高品質の農作物ほど鳥獣が好んで害を起こすという問題もあって、高品質路線を採ったとしてもコストがかかり過ぎて利潤を出しにくい構造になってしまっている。高かろうが、安かろうが、いばらの道……それが日本の農業らしい。

 

そんな「レンコン農家」という無理ゲーをいかに攻略するか、挑戦したのが『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』(新潮新書)の著者 野口 憲一さんである。かすみがうら市のレンコン農家に生まれ、民俗学者としてアカデミズムの世界に身を置きつつも、いかにしてレンコンを売れる形にもっていけるか……その可能性をアカデミズムならではの視点も活用しながら奮闘されている御方である。

 

ここ2週間でこの3冊。充実のひと時だった!

 

正直なところ、この本にはノウハウなんて一切書かれていない。分かったのは、(1)足を使って人脈を広げまくっておく、(2)チャンスらしきものがやってきたら多少胡散臭くても飛び乗るの2点が低知名度からの飛躍に有用であること、そして伝統を意識的に引き継いだ形にすることでブランディングを行っていく戦略が役に立つかもしれないこと。そういった事柄をこの本からは読み取った。この著者はマスメディアを駆使して野口農園の知名度を上げているのだが、マスメディアとコネクションを作るまでの過程も相当大変だったのではと推測する。

 

こういった斬新な取り組みを行うと、よそからの羨望や嫉妬で足を引っ張られることも少なくないようだ。とりわけ、この著者の場合は家族が敵に回ってしまっているエピソードが何度も語られていて、メンタル面でも厳しいものがあったのではないかと思う。自分の場合はYouTuberとしての活動を家族も応援してくれているので、有難い限りだ。

 

いずれにしても、レンコン農家の苦境が痛いほど伝わってくる一冊だった。特に食べ慣れている茨城県民がレンコンを食べるようにしていかないと、レンコンもなかなか売れないのではという気がするのだが、茨城県内の食事処を回ってみてもレンコンを売りにしているお店がなかなか見当たらないのが寂しいところだ。どなたか、美味しいレンコンをリーズナブルに食べられる場所をご存じであれば、ご教授願いたいものだ。