つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

仕事のポートフォリオ

前々からはっきりと自覚していることだが、医師の業務の中では臨床が最も苦手である(嘘でしょ!と言ってくれる人もいるが、マコトである)。自己認識としては、教育が圧倒的に得意で好き。研究は得意かは分からないが好き。臨床は得意になろうとも好きになろうとも努力しているが、時間をかけてもどうにもうまくいかない。だから、得意と好きの乗算でいくと「臨床:研究:教育=1:3:6」くらい。そもそも研究や教育の基盤が臨床にあることを考えると、これでは非常にまずいのだが、向き不向きを矯正するのも難しい。「医者の仕事が9時-17時というのはナメている」という言説を見るたびに、「いやいや、9時-17時ずっと臨床やれている人はそれだけで凄いでしょ」と思ってしまうのが吾輩なのである(信じられないかもしれないが、本心である)。そういえば、黒田官兵衛が槍働きについて聞かれた時に「人には向き不向きがある」と言った逸話が有名だが、自分もこの話をいつも気休めにしてしまっている。

 

実は最近、「臨床・研究・教育」のいずれにも分類できないような仕事が日に日に増えている。YouTuberや執筆業に加えて、企業向けにコンサルタントの仕事をはじめたのだ。「バイキン屋。」からの収入が増えている中だったが、既存事業の勢いがある時に新規事業をはじめないと経営に失敗するという話を色々な書籍で勉強していたので(たぶん『両利きの経営』)、それに倣って「バイキン屋。」の事業を多角化しているわけだ。必然的に仕事が増える。外勤先の院長先生からは「いつ寝ているんですか?」と苦笑いでご心配をお掛けする有様である。実際にあまり寝ていないせいで定期的に鬱になるので、最近は意識して6時間は眠るようにしている(提携企業にも午後21時以降は仕事を入れないようお願いしている)。

 

ただ、仕事量が増えて分かったこともある。周囲からの印象とは違ってあまり辛くないのだ。理由は簡単。増えた分の仕事が得意かつ好きな仕事だから。当たり前のことではあるが、苦手かつ嫌いな仕事は周囲ほどに量をこなしていなくても相当にしんどいもので、本人的には決死の努力をしていても周りからはサボっているように見えてしまうリスクがある。逆に、得意かつ好きな仕事は多くこなしても全く苦痛にならず、むしろ夢中になり過ぎて寝るのを忘れるくらいだから、本人のハングリー精神とは裏腹に過労を周囲から心配されがちである。そう考えると、少しでも世のため人のために貢献しながら幸せになるには、得意かつ好きな仕事でコンフォートゾーンを出ている状態が良いのだろうと改めて思った次第である。

 

とはいえ、残念ながら現実からは逃避できない。得意な仕事が「臨床以外全般」だとしても、実際にかける時間は「臨床:研究:教育=6:3:1」だ。この不一致からくる心身への負荷がなかなかにしんどい。幸せになるためには、少しずつで良いから仕事のポートフォリオを上手くシフトしていけたらなぁと思うのだが、これは将来に向けての願望。言うまでもなく、かようなことは一朝一夕に実現できるものではないから、当面の疲れは銭湯に行ってでも癒すわけである。甘い芳香を放つ湯に浸かってリラックスした後は、サウナ道を2セットばかりやって、嫌なことを頭から叩き出してしまおうではないか。それでも心身が駄目になっていく場合は……? そのときはキャリアパスをゼロから考え直して、再起を図るのもひとつの方法かもしれない。いざとなればいくらでもやりようはあるのだ。サンクコストの誤謬に囚われることなく。

 

研究学園駅前。静かで落ち着く良き湯でござった