臨床・研究・教育を満遍なくやっていると時間管理が非常に難しいのだが、ここ1週間は途方もなく忙しかった。まず、Dr.'s Prime Academiaの講義のお仕事が1件あった。この仕事は半年前にはじめてから既に10回くらい講義をしていると思うのだけれど、YouTubeとの両立などの問題があって、最近は月1回までに絞るようにしている。どうしても質を担保しようとすると月1回が限度なのかなと体感的に感じているのである。
濃密な講義を作ろうとすると、ネタを集める期間が必要で、さらにそのネタを寝かす期間も必要になる。集めたネタをそのまま披露するだけでも講義としては成立するのだが、それだとどうしても知識の羅列になってしまって面白味に欠けてしまうのだ。むしろ、集めた知識を寝かしておいて、頭の中で解釈の域へと変換しておかないと、満足度の高い講義はできない。そういうわけで、Dr.'s Prime Academiaの講義は月1回まで。
他には、2023年4月から医学書院で「ジェネラリストNAVI」での連載の仕事をやっている。この連載の仕事こそ自分が長年夢見ていたもので、企画のコンセプト自体は4~5年前から存在していた(何を隠そう、自分と最も付き合いが長く、大恩のある企業は医学書院である)。当初は「医学界新聞」に連載するなどの話もあったのだが、当時の自分が研修医の身分だったなどの諸事象あって、なかなか実現に至らなかった。それで、臨床研修を修了するタイミングで連載を始めることになり、今では「抗菌薬ものがたり」を週1で連載しているいうわけである(ただ、燻っていた期間がだいぶ長かったお陰でネタを熟成させる時間を得られたという見方も今となってはできる)。
週1での連載と聞くと大変なイメージがあるかもしれないが、幸いにして執筆業こそ自分の得意分野であり、大好物である。契約上は、1回あたり1,200字(実際は超過気味)。このくらいの分量ならビフテキを平らげるよりかは簡単に書ける。そんなわけで、実は既に連載半年分を脱稿してある状態である。その後はしばらく原稿を書いていなかったのだが、最近になって続編のために執筆を再開した。Dr.'s Prime AcademiaやCareNetなどで講義の経験値が蓄積されたお陰か、既にアイデアが頭の中でまとまっており、1日1回分ペースで執筆を進められている状況だ。まぁ、要するに絶好調である。
それでも、この1週間は本当にしんどかった。というのも、多忙の裏で洋書翻訳の仕事もいただいていたのだ。既に「臨床・研究・教育」に加えて、週2~3回のYouTube、月1回のDr.'s Prime Academia、週1回の連載を抱えている状態ではあったが、翻訳業も憧れていた仕事。仕事の依頼をいただいた時に「忙しすぎて絶対に無理!」と一瞬考えたものの、やらないという選択肢はないということで「喜んでやります!」と秒で返事をしたのだった。
そういうわけで翻訳も並行してやっていたのだけれど、実際にやってみるとこれがなかなか難しい。端的に言うと、英語と日本語は言語としてあまりにも違い過ぎるのだ。「原著者の意図を汲むこと」と「原著者の書いた英語を忠実に日本語に訳すこと」とがときどき対立してしまう問題を生じた。例えば、COPDに対する "controlled oxygen therapy" なんかは非常に訳しづらかった(言わんとすることは分かる)。これこそが翻訳の難しさ、けれども刺激的で楽しかった。意外と英文翻訳(≠ 英文和訳)の能力こそ、国語力を反映するのではないかとも感じた(学校で国語を教えられている先生方、如何でしょうか?)。
もともとは翻訳の仕事を数か月かけてじっくりとやる予定だった。締め切りにも余裕があった。ただ、翻訳の仕事が想像をはるかに上回ってハードだった。このままだとYouTubeや連載と上手く両立できない……そこで、数日程度 喫茶店に籠って一気呵成に翻訳しきってしまったのである。2か月分の仕事を4日でやりきったものだから、さすがに頭への負荷が凄まじかった。こんなに集中したのは大学受験以来だろうか。
晴れて翻訳の仕事が一段落したので、少しだけ枕を高くして寝られそうだ。それにもうすぐゴールデンウィーク。妻と1泊2日だけ温泉旅に出かける予定だ。畳でリラックスしながら連載の続きを書けるのが楽しみである。