つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

アイデアのつくり方

マネジメントスキルを鍛えるべく最近は色々な場所で学んでいるのだが、その中でジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』(阪急コミュニケーションズ)を読むよう勧められたので早速図書館で取り寄せて読んでみた。どうも米国ではクリエイターの必読書、不朽の名作に挙がるものらしい。僅か100ページ程度の小冊子だが、書かれている内容は「如何にも、その通りだ」と納得のいくものだった。ただ、これだけ有名な作品であるということは、きっと自分もどこかで引用する機会があるだろう。備忘録的に書き留めておくわけである(図書館で借りようにも予約されていることが多く、引用したい時に速やかに引用できる保証がない……)。

 

引用文献になりうる知名度の古典なので書き抜いといた

 

どんな技術を習得する場合にも、学ぶべき大切なことはまず第一に原理であり第二に方法である。これはアイデアを作りだす技術についても同じことである。(中略)知っておくべき一番大切なことは、ある特定のアイデアをどこから探し出してくるかということでなく、すべてのアイデアが作りだされる方法に心を訓練する仕方であり、すべてのアイデアの源泉にある原理を把握する方法なのである。(pp. 25-27)

 

イデア作成の基礎となる一般的原理については大切なことが二つあるように思われる。そのうちの一つには既にパレートの引用のところで触れておいた。即ち、アイデアとは既存の新しい要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもないということである。(中略)関連する第二の大切な原理というのは、既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きいということである。(中略)いうまでもないが、この種の関連性が見つけられると、そこから一つの総合的原理をひきだすことができるというのがここでの問題の要点なのである。この総合的原理はそれが把握されると、新しい適用、新しい組み合わせの鍵を暗示する。そしてその成果が一つのアイデアとなるわけである。だから事実と事実の間の関連性を探ろうとする心の習性がアイデア作成には最も大切なものとなるのである。(pp. 27-31)

 

集めてこなければならない資料には二種類ある。特殊資料と一般的資料である。広告で特殊資料というのは、製品と、それを諸君が売りたいと想定する人々についての資料である。私たちは製品と消費者について身近な知識をもつことの重要性をたえず口にするけれども実際にはめったにこの仕事をやっていない。(中略)一般的資料を集めるという継続的過程もまたこの特殊資料を集めるのと同じように大切である。(中略)さて、この一般的資料を収集するのが大切であるというわけは、私が先にいった原理つまりアイデアとは要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもないという原理がここへ入り込んでくるからである。広告のアイデアは、製品と消費者に関する特殊知識と、人生とこの世の種々様々な出来事についての一般的知識との新しい組み合わせから生まれてくるものなのである。(pp. 34-38)

 

以上がアイデアの作られる全過程ないし方法である。

第一 資料集め――諸君の当面の課題のための資料と一般的知識の貯蔵をたえず豊富にすることから生まれる資料と。

第二 諸君の心の中でこれらの資料に手を加えること。

第三 孵化段階。そこでは諸君は意識の外で何かが自分で組み合わせの仕事をやるのにまかせる。

第四 アイデアの実際上の誕生。〈ユーレカ! 分かった! みつけた!〉という段階。そして

第五 現実の有用性に合致させるために最終的にアイデアを具体化し、展開させる段階。(pp. 54-55)

 

 

P.S.

そういえば、色々な企業と付き合っている吾輩を見た母が「結局、(一部の)ベンチャーの人たちがやっていることって、所詮は仲介業であって、汗水たらしてモノを生産しているわけじゃないのよね。そういう仕事ばかり増えているのってどうなのかしら」と疑問を口にしていた。分かる! 分かりみが深すぎる! 少なくとも『現代経済学の直観的方法』を読む前の吾輩もまったく同じ疑問を感じていたのだ。資本主義という名の巨大な幻想をしっかり勉強していないと、このあたりの仕組みにはピンと来ない。

 

資本主義というのは、止まれない暴走列車のようなもので、絶えず価値を生み出し続けないといけないことが宿命づけられている。しかし、新しい価値をゼロから生み出すことは極めて困難だ。新しい価値を生み出すためには、既存の知識を複数組み合わせて —— 既存のといっても、特殊知識と一般的知識の組み合わせがよいらしいが —— イノベーションを重ねないといけない。そして、そのためには異なる価値観のコミュニティをつなぐ必要があり、ここに仲介者の存在意義がある。

 

さりとて「孤掌は鳴らず」で、汗水たらして働く人々がいてはじめてこうした仲介業も成立する。この当たり前の事実を忘れてしまうと、世界を覆うこの巨大な幻想も崩壊してしまうのではないかと危惧する気持ちもある。「アイデアのつくり方」を勉強する一方で、アイデアを生み出し続けること自体が本当に善なのかは、頭の片隅に悪魔の代弁者的な疑問としてとっておきたいところである。