つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

内科専門医のタスクをやってみて

タイトルのごとく内科専門医資格の取得に向けて猛烈にサマリーを記載しているItoです。29症例分のサマリーを提出しないといけないのですが、この2週間で17症例分記載したので、2021年4月中には何とかなると思います。茨城県北の市中病院での初期研修2年と東大感染症内科での専門研修1年を経て、現在は筑波大学附属病院の病院総合内科の2年目に突入している状況ですが、後方視的に見ると、病院総合内科で研修するのは内科専門医資格の取得にはかなり有利だと思います。

 

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Paella Dinning Poco Loco (つくば市): 自粛中のささやかな幸せ

 

J-OSLERは簡潔な症例の概要記載を160症例分、参考文献つきのちゃんとしたサマリーを29症例分書かないといけなくて、先輩方からは結構大変だという噂を聞いていたのですが、やってみるとそんなにキツくはないと感じました。少なくとも、サマリー29症例分の部分については病院総合内科での研修で間に合います (稀な疾患である必要がないため)。

 

簡単に症例の概要を記載する160症例分のところも、病院総合内科で9割近くカバー可能です。病院総合内科に居続けるだけでストレスフリーにやれる良さがあります。ただし、残りの1割の症例でちょっと苦戦するので、今後病院総合内科に入りたいという先生方のためにも、ちょっとだけアドバイスを残しておきます。まだ知名度が低いから、病院総合内科に来たいという人、いないかな?

 

まず、消化器、循環器、代謝、腎臓、呼吸器、アレルギー、感染症、救急の枠については、何も考えなくても症例数が多いので、問題なく症例を集めることができます。アレルギー分野に入るアナフィラキシー症例が救急・集中治療科併設科にしては少ない印象を受けているのですが、これも救急外来に結構搬送されているので、入院症例が必要であれば救急外来に申し送ることで経過観察入院の症例をまかなうことが可能かと思います。あと、悪性腫瘍の症例はさほど多くないのですが、これも末期の症例が病院総合内科に流れてくることがあるので問題ないです (各臓器科が悪性腫瘍末期の症例を診ない現状については問題大ありなのですが、深くはツッコまないでおきます……)。

 

次に、内分泌。甲状腺機能低下症の人は結構多いので、高齢女性に適当にスクリーニングをかけていれば問題なく見つかります。下垂体疾患枠はSIADHで、副甲状腺疾患枠は神経性食思不振症 (低リン血症) or 骨粗鬆症 (スクリーニングで拾う) で攻略可能です。地味に問題なのが副腎疾患枠で、個人的にはステロイドユーザーの薬剤性Cushing症候群で乗り切るのが一番現実的かなと思っています。他には漢方薬を使っている低カリウム血症患者を偽性アルドステロン症として登録するのも一手ですが、甘草の含まれていない漢方薬でやらかさないよう注意しましょう (例:大建中湯はNG、六君子湯はOK)。

 

血液については、赤血球枠と血小板枠はそれぞれ貧血症例、DIC症例をあてればいいのでそんなには苦労しません。ただし、白血球枠がかなり厳しいので注意。白血病症例は病院総合内科に来ません。従って、個人的なお勧めとしては、初期研修医時代の血液内科ローテ症例を持ってきて登録するのが一番賢いと思います。不明熱症例でフェリチンが高いのと血球が減っているのを見つけて血球貪食症候群とする方法もありますが、病理組織学的に証明されていない場合に果たして有効かどうかは、ちょっと自信ないですね。

 

神経については、脳出血てんかん、Parkinson病、アルコール依存症の症例が多いので半分くらいは難なくクリアできるのですが、感染性・炎症性疾患枠、免疫異常による神経筋疾患枠、非免疫異常による神経筋疾患枠の3つが鬼門です。感染性・炎症性疾患枠は帯状疱疹あたりをアルバイトの内科外来で見つけられれば攻略可能で、あとは年に2-3例程度みる髄膜炎 or 脳膿瘍症例に期待といったところでしょうか。腰椎穿刺で頻繁に見つかる「髄液所見的には合致するが起因菌のよく分からない髄膜炎」が制度的にOKなのかはちょっと怪しいです。それと、免疫異常 and 非免疫異常枠は初期研修医時代の神経内科ローテ症例を持ってくるのが賢明です。病院総合内科で視神経脊髄炎やDuchenne型筋ジストロフィーの症例を見ることはありましたが、そういうケースは極めて稀で期待薄です。あと、皮膚筋炎の症例をこの枠に使えることは覚えておくといいです。

 

膠原病も割と少ないので注意が必要です。関節枠については、アルバイトの内科外来に関節リウマチ症例がいたら確実に押さえておくことをお勧めします。もし関節リウマチ症例がいない場合は、一緒に仕事をしている救急外傷チームの症例を併診することで乗り越えるという裏ワザもあります。非関節枠が結構厳しいのですが、あちこち痛い患者さんで他疾患を除外の上で線維筋痛症と診断するのが一番楽かもしれません。他にはアミロイドーシスが結構見逃されているので、心筋症の患者さんで診断がつかない場合に99mTcピロリン酸シンチグラフィを施行するのも一手です (幸いにして筑波大学ではシンチグラフィを施行しやすい……)。ちなみにItoは初期研修医時代の症例をたくさんぶつけて攻略しました。たまたま病院総合内科に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の患者さんが入院していたので、それも非関節枠に登録しています。

 

ということでまとめると、大半の疾患枠は病院総合内科にいるだけで攻略可能ですが、以下の疾患に注意が必要です。あとは剖検症例ですね。

至難の業 (必ず初期研修の症例を密輸入せよ)

 血液疾患の白血球枠、神経疾患の免疫異常・非免疫異常による神経筋疾患枠

まぁ大変 (いなくはないが初期研修の症例があると無難)

 神経疾患の感染性・炎症性疾患枠、膠原病の関節枠・非関節枠

不安になるがなんやかんやで間に合う

 副腎疾患 (薬剤性Cushing症候群 or 偽性アルドステロン症で乗り切る)

 

上記疾患にさえ注意していれば、病院総合内科に半年から1年いるだけで症例が全部集まってしまいます。おまけに、大学病院の各内科をローテートしなくていいので、例えば教授回診の資料作りに残業するとか、そういう理不尽系の努力もしなくて済むわけです。病院総合内科はカンファレンスや夜間・休日の呼び出しなどが最低限の負荷に抑えられているので、システム的には非常にストレスのかかりづらい環境です。なんというか、少人数ゆえの良さがあるわけです。理不尽なことがあれば、直接科長のK先生に相談して対応できますし。今の病院総合内科は個人的にかなりお勧めできるのですが、いかんせん知名度が低いのでなかなか人が集まらない。勿体ないなぁと感じます。