つくばホスピタリストの奮闘記!

つくば市在住の感染症内科医・総合内科医によるブログ。臨床現場での雑感、感染症などの話題、日常生活について発信します。2019年は東大の感染症内科、2020~2022年は筑波大の病院総合内科に所属、2022年8月からは東京医大茨城医療センターの総合診療科で臨床助教をやっています。ここでの記載内容は個人的見解です。

サーティーワンおじさんの自慢ごと

何歳になっても、誕生日を迎えるとそれまでの1年を振り返る癖が抜けない。この1年を形容するとしたら、「交友関係に恵まれた年」ということになるのだと思う。これまでの自分の人生で、他の人の人生よりも何かが優れているというのはあんまり自覚しない。優遇されているとも思わないし、不遇だとも思わない。ただ、ひとつだけ自慢があるとすれば、自分のこれまでの人生は人間関係面で異様ともいえるほど恵まれている。大学5年生の頃までは人間関係面でもさほど恵まれていなかった気がするが(明確に師匠のいた中学生時代を除く)、それ以降の人間関係は他に類を見ないほど恵まれていると確信を持っているのだ。

 

2~3週間に1回はケバブを食べる。ラム肉が好きすぎるのだ。

 

最初に恵まれた人間関係は、師弟関係であった。人生でもかなり人格に影響する中学生時代を濃厚な師弟関係のもとで過ごしていたものだから、大学入学以降の師弟関係不在の教育システムとはまったく適合しなかったわけだが、大学5年生頃から東大病院に当時在籍されていた先生方から個人レッスンをしていただくようになってからは、医学を面白いと思えるようになったし、色々とダメな自分を少しは肯定できるようになった。初期研修医時代は師弟関係不在の状態に戻ったが、そこでいったん独学中心の生活に戻って、独学の限界を実感できたことも有意義だった(同時に、当直への恐怖心のせいで鬱な時期でもあった)。独学の限界を知っているからこそ、師匠の存在の不可欠を悟ることができたのであり、後期研修医がはじまるとともにまた新たな師弟関係のもとで勉強できたのもよかったと思う。新旧の師弟関係の中にはいまでも続いているものがあり、遠慮なく叱ってくれる師匠がいるからこそ箍を緩めることなく研鑽し続けられる。ありがたいことだ。

 

後期研修がはじまってからしばらく後、師弟関係が続きつつも、それが少し希薄になっていた時期があった。ただ、この時期は間違いなく後輩に恵まれていたと思う。自分の勤める診療科をローテートした後輩に対しては、もちろん診療科のカリキュラムとして教えていた面もあるのだが、慕ってくれる意欲的な後輩に対しては「秘蔵っ子」のつもりで問診や身体診察の繊細な部分とか、論文の読み方や書き方などを叩き込んだ。自分が教えた後輩たちは、いまはそれぞれの診療科で華々しく活躍しているところだ。中にはNEJM・JAMA系列に論文を載せて既に名を轟かせている怪物もいれば、なかば独立してコンスタントにトップジャーナルに論文を発表している努力の天才もいる。要するに、自分の教え子は、例外なく教えた自分よりも優秀なのだ。そんな彼らが、忖度からか、たまに自分に相談を持ってきてくれる。才覚の劣る自分の助言が果たして役に立つものかと疑問に思っているが、こうして自分のことを忘れないでいてくれるのはありがたいことだ。同時に、自分も背中を見せられないなりに実力がないとみっともないよなぁとは思う。

 

師匠に恵まれていた時期、後輩に恵まれていた時期を経て、現在の職場に赴任するに至って1年と少しが経つ。この1年で恵まれた人間関係は、交友関係であろう。後輩たちよりも見劣りするとはいえ、自分も多少の実績は積み上げてきたつもりだ。その中で、自分よりも少し年上の先輩方からお声がけいただける機会が増え、師弟関係とはまた異なる関係、いわば交友関係が一気に広がった。医療業界での交友関係も広がって、学会などの場での出会いが増えているところだが、それ以上のスピードで医療外の交友関係が広がっている。不思議なもので、人間関係を大切にしながら実績を少しずつ積み上げていくと、思わぬ人物を紹介してもらえて連鎖的に人間関係が広がっていくのがこの世のならいのようである。普通に医者やっていたら絶対に接点がなさそうな業界ともつながれていて、金銭だけでなく人間関係にも複利効果が働くのかと驚いてしまうのである。こういった経緯があって、特定の業界にアプローチしたい時に誰に声をかければ良いのかというのが、ある程度自分の中で出来上がりつつあるように思う。

 

ちなみに、医者と関係の深い企業と言えば製薬会社だが、こちらの関係性はそこまで強いものはない。むしろ、他の医者と比べると関係性が弱いくらいだが(実際問題、あまり強化しすぎると論文執筆時のCOIが問題になる……)、こちらも最近になって恵まれはじめているように思う。昔は営業一辺倒で宣伝ばかりするMRさんしかいなくて辟易としていたのだが(ゆえに、基本的にMRさんは嫌いである)、最近は薬を愛してやまないタイプの風変わりなMRさんが来ることがあって、そのオタクトークを聞いていると結構楽しい。自社の薬の宣伝をまったくせずに、競合他社のも含めた薬の歴史とか構造式とかの話をガンガンしゃべってそのまま帰ってしまうMRさんまでいて、「本当に薬を愛しているんだなぁ」と感じられて良いと思う。もっとも、あまりにも自由奔放すぎるものだから、彼らがクビにならないかは少々心配でもある。

 

そういうわけで、この1年を振り返ると「交友関係に恵まれた年」であり、いままでをすべて合わせると、師匠・少し年上の先輩・後輩に尋常ならず恵まれていることになる。数年前までは正真正銘のぼっち族だったものだから、いま自分が素敵な人たちに囲まれているのがちょっと信じられないくらいだ。ただ、人間関係に恵まれているということは、同時にそれに伴う責任も果たさなければならない。つまり、人間関係を維持できているのは、自分に対する信頼が蓄積されているからであって、その蓄積がなくなった瞬間に人間関係が崩壊してしまうことも肝に銘じておかねばならないと思っている。ここでの信頼をもう少し具体的に表現すれば、「いまの」自分の実力に対する信頼というよりは、「将来期待される」自分の実力に対する信頼なのだろう。謙虚に研鑽し続けること、着実に成果を出し続けること、そして、能力を劣化させずに少しずつでも伸ばし続けること(認知症にならないこと?)。言い換えると、素敵な人たちに囲まれているということは、自分自身もそれに見合う素敵な人にならないといけないのだと思っている。そういうわけで、自分の人生は自分自身のものであると同時に、応援してくれるステークホルダーの皆さんのものでもあると認識しながら、変わらず精進を続けていきたい。