昔からずっと続いていることではないかとも思うのだが、「ベテラン vs ルーキー」の対立構造がなかなか目に余る。「働き方改革」が言われる前は(割とリベラル寄りとされる総合診療界隈であっても)ベテラン医師が若手医師をカンファレンスでボコボコにやっつける光景が頻繁に見られていた。それが最近では、異様ともいえるほどに若手医師を優遇しようという風潮がある。若手が活躍できる場所が無批判に "善" と見なされているような気がしていて、ちょっと気持ち悪い。
白状すると、我輩も若手医師を優遇しようという最近の風潮の恩恵を大いに享受している立場だ。ただ、この風潮が果たして適切かといわれると少々疑問にも感じる。結局のところ、ベテラン中心の昔にしても、ルーキー中心の今にしても、ベテランかルーキーのどちらかに活躍が集中してしまっているという点で歪みを感じてしまうのだ。「ベテラン vs ルーキー」の対立構造がいつまでたっても解消されず、振り子のように極端に反復し、中庸——つまりはベテランとルーキーの協調がいつまで経っても実現しない。結果、「老害」とか「青二才」といった互いの反発心と無関心が職場を支配してしまいがちなようにも見受けられるわけだ。
そもそもなぜ日本の総合診療界隈で若手医師が優遇されやすくなったのか。もちろん、「働き方改革」をはじめとする国策もあるだろうし、少子化のせいで若手医師を確保すべく迎合しようという思惑もあるのだろう。それと同時に我輩が感じるのが、エビデンスに基づいた医療(EBM)が普及した影響である。つまり、それまで経験の積み重ねによる熟練の技とされてきたものが、エビデンスの形で言語化された。Up to Date🄬を開けば、日々論文にかじりついていなくてもエビデンスを簡単に入手できてしまうわけだ。いまのベテラン医師が若かった頃よりも、今の若手医師は情報面で遥かに恵まれている。
インストラクショナルデザインの中で重要な概念としては、Gagné の9教授事象を押さえておきたい。具体的には、導入あるいはレディネスの確立として(1)注意を獲得する、(2)学習目標を知らせる、(3)前提条件を思い出させる、情報提示として(4)新しい情報を提示する、(5)身につけ方のガイダンスを行う、学習活動として(6)練習をさせる、(7)フィードバックを与える、まとめとして(8)学習の成果を評価する、(9)保持と転移を高めるといった事象で構成される(これらの事象は、前述のeラーニングの構成にもある程度生かされている)。9つの事象は、必ずしもこの順序で提示しなければならないわけではないし、すべての事象を採り入れる必要もない。しかし、学習の最終段階で「意味的符号化」(入ってきた情報が学習者の中でひとつの命題の形へと変換されるプロセス)がなされ、さらにそれが実践で繰り返し使われないと、知識をなかなか保持することができない点には注意が必要である。なお、注意喚起に関しては、John M. KellerのARCSモデルも参考になるだろう。これはAttention(面白そうだ)、Relevance(関係ありそうだ)、Confidence(学べそうだ)、Satisfaction(メリットがありそうだ)という条件が揃うことで学ぶ意欲が喚起されるというモデルである。
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